’14年以降の急増はどこまで持続するか? ~人口減少の課題に向き合う特許~

特許

内容

1.はじめに:
2.人口減少と特許:
2.1 調査方法
2.2 経時変化にみる2つの急伸
2.3 急伸のキッカケは?
2.4 1つ目の急伸ピーク(1991年)の出願企業と発明タイトル
2.5 2つ目の急伸ピーク(2019年)の出願企業と発明タイトル
2.6 企業が牽引
3.おわりに:

 

1.はじめに:

昨年6月開始の本ブログも2年目に突入しました。

いつもご覧いただきありがとうございます。

さて、今回は、社会課題の1つである「人口減少」に注目しました。

物流の2024年問題では生産年齢人口の減少もあり、この言葉を耳にされる方も多いと思います。

大きな社会課題ですから、きっと特許出願動向にも反映されているはず!?と思い、簡単な調査を実施してみました[i]

経営者の方も、この課題に着目した起業アイデアをお持ちの方も少なくないはずです。

では、はじめましょう。

 

2.人口減少と特許:

2.1 調査方法

「人口減少」の課題解決に貢献し得る特許出願や実用新案登録出願がどの程度されているかを調べてみました[ii]

公知日が1980/1/1以降である登録特許公報と登録実用新案公報を対象に、下記キーワードが掲載されているものをカウントしました。

キーワード:人材不足/人手不足/労働力不足/労働力減少/労働人口不足/労働人口減少/人口縮小/人口減

 

2.2 経時変化にみる2つの急伸

ヒット件数は2981件でした。

出願年毎に整理して経時変化を調べた結果が下のグラフです。

とても興味深いことに2つの時期で急増がみられました。

1つ目は1989年頃からの急増で、1991年に240件のピークを迎えます。

その後は減少傾向が続き、2000年代はピーク前とほぼ同水準で推移しています。

2014年頃から再び急増し、2019年には前ピーク値をはるかに超える332件となっています。

なお、登録特許数・登録実用新案数をカウントしている関係上、現在審査中の案件はこのグラフの対象外です。

つまり、今後の審査状況により、2020年以降も増加が継続するかもしれません。

 

2.3 急伸のキッカケは?

1989年頃、2014年頃に急増の現象がみられる結果となりました。

これらのキッカケは何だったのでしょうか?

(1)1990年には「1.57ショック」があった:

1990年(平成2年)は、前年の合計特殊出生率が、一時的低下であった1966(昭和41)年の「ひのうえうま」の水準(1.58)を下回る1.57となり、「1.57ショック」と言われた年です。[iii]

(2)2014年には「消滅可能性都市」リストが発表された:

2014年5月には、日本創成会議が「消滅可能性都市」リストを発表しています[iv]

これら(1)(2)は、少なくとも急伸のきっかけの1要因になったと推測されます。

 

2.4 1つ目の急伸ピーク(1991年)の出願企業と発明タイトル

(1)1つ目のピークであった1991年において出願件数が多い上位10社の出願人は以下の通りでした。

なお、1位は10件、6位は3件でした(3件が6社)。

ミサワホーム/エー・シー・リアルエステート/あじかん/リンコ・ジャパン/竹中工務店/パナソニック/パラマウントベッド/花王/三機工業/三州産業/凸版印刷

(2)各社の出願を1つずつ抽出して発明の名称を列挙すると、以下の通りです。

・住宅用基礎及び住宅用基礎の施工方法(特許2071287)
・ロール状食品の連続製造方法および回転ドラム(特許3032991)
・トンネル工事における自動土砂搬出システム(特許2571480)
・自動法面掘削システム(特許2696442)
・屠体処理装置のレッグプロセッサー(特許2059382)
・鉄筋コンクリ-ト斜め屋根の施工法と打込み中空型枠(特許2851463)
・防臭トイレ床部材(特許3339060)
・ベッドにおける徘徊検出手段(特許2014097)
・配送スケジューリング装置(特許2985436)
・防災訓練用装置(特許3070871)
・葉たばこ乾燥作業省力化システム(特許2005194)
・印刷デザインシステム(特許2687755)

 

2.5 2つ目の急伸ピーク(2019年)の出願企業と発明タイトル

(1)現時点では2つ目のピークに相当する2019年において出願件数が多い上位10社の出願人は以下の通りでした。

なお、1位は10件、8位は5件でした(5件が3社)。

日立製作所/コニカミノルタ/セイコーエプソン/日本電気/パナソニックIPマネジメント/TOTO/セコム/オリエンタル酵母工業/トッパン・フォームズ,川崎重工業,川崎車両/本田技研

(2)各社の出願を1つずつ抽出して発明の名称を列挙すると、以下の通りです。

・水道施設の状態監視システム及び水道施設の状態監視方法(特許7304177)
・介護支援システム、介護支援方法及びプログラム(特許6696606)
・ロボットシステムおよびロボットシステムの制御方法(特許7342618)
・搬送経路設計装置、搬送経路設計方法、及び、プログラム(特許7131684)
・収穫ロボットシステム(特許7223977)
・紙巻き器及びトイレ管理システム(特許7365578)
・警備システム及び監視表示装置(特許7074716)
・冷凍積層パン生地用品質向上剤、パン類の製造方法およびパン類の品質向上方法(特許7281997)
・亀裂検知用ラベル(特許7173900)
・車両管理サーバ、車両管理システムおよび車両管理方法(特許7285653)

(3)1998年は、住宅用基礎、自動土砂搬出、鉄筋コンクリ-ト斜め屋根の施工など、建築・建設・土木関係の出願の多さを感じます。

2019年はこれらに加えて、ロボット、警備システム、亀裂検知など、IoTやAIに関係しそうなキーワードも登場してきていて時代の変化を感じます。

対象も、大きなものから、より身近な小さなものも含まれるようになっている印象を受けます。

 

2.6 企業が牽引

下のグラフは、各年の出願人数を、法人出願と個人出願(個人だけが出願人になっている出願)に分け、1991年と2019年で比較したものです。

これを見ると、個人出願の出願人数は増えていませんが、法人出願の方は増加しています。

人口減少をビジネスの面から積極的に解決しようとしている企業活動の様子が浮かび上がりますね。

 

3.おわりに:

人口減少という切り口で特許出願の動向をご紹介しました。

急増の原因になりうるものを調べてみると、それぞれ1つの報告(レポート)にたどりつきました。

社会課題に対するレポートは、ビジネスアイデアのキッカケになりうることが、特許出願動向の結果からも見えてきますね。

本日もご覧いただきありがとうございました。

 

【参考文献】
[i] 登録特許公報(登録実用新案公報)の中に1つでもキーワードが含まれていれば、カウントする手法を採用。データにはいわゆるゴミも含まれている可能性もありますが、相対変化を示していますので参考情報としてご覧いただければ幸いです。
[ii] 特許情報プラットフォームJ-PlatPatを使用、調査日は2024/7/4
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
[iii] 日本社会保障資料Ⅳ(1980-2000), 国立社会保障・人口問題研究所
https://www.ipss.go.jp/publication/j/shiryou/no.13/data/kaidai/01.html
[iv] 地方自治体「持続可能性」分析レポート, 一般社団法人 北海道総合研究調査会
https://www.hit-north.or.jp/information/2024/04/24/2171/

 

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