続・ウェルビーイングとビジネス ~ウェルビーイングの発明とはどのようなものか?(その2)~

特許

内容

(前回まで)
2.4 急増させる・計画的に進める・一点に集中する
2.5 特許請求の範囲で整理しても近年増加傾向にある
2.6 累積件数1位はマツダ
2.7 上位3社の出願傾向
2.8 タイトルや要約書からみたウェルビーイング発明の一例
3.おわりに:

 

(前回まで)

前回は、
2.1 ウェルビーイングに言及した特許出願は近年急増している
2.2 累積件数は、仏・サノフィー社が他を圧倒している
2.3 サノフィー社を除いても急成長している
を紹介しました。

今回はこの続きです。

 

2.4 急増させる・計画的に進める・一点に集中する

もう少しだけ深堀してみましょう。

ここでは、前回ご紹介した上位3社(サノフィー、フィリップス、マツダ)の出願件数の経時変化をグラフ化してみました。

【図4】

今回の調査の範囲内という限定付きですが、前回も紹介した通り、サノフィーは近年、出願を急増させています。

フィリップスは長年にわたり継続して出願していることが分かります。

マツダは特定の技術分野について一時期に集中して出願しています。

急増させる・計画的に進める・一点に集中する、という各社の戦略の一端がでているともいえそうです。

 

2.5 特許請求の範囲で整理しても近年増加傾向にある

ここまでの紹介は、発明を説明するための書類である“明細書”のどこかに「ウェルビーイング」が言及されてるものをカウントして整理したものです。

提出書類には、明細書とは別に、創作した発明の内、どの部分を特許として権利化したいのかを示す、「特許請求の範囲」という書類の提出も必要となります。

そこで、“特許請求の範囲”の中に「ウェルビーイング」が言及されているものをカウントして整理したグラフが図5です。

【図5】

特許請求の範囲に注目して整理してみても、ウェルビーイングに関する特許出願は、近年増加傾向にあるといえそうです。

 

2.6 累積件数1位はマツダ

図5と同じ情報を出願人別に整理すると図6となります。

【図6】

図6に示す通り、今回の調査の範囲内ではマツダが11件で1位になっています。

2位はアンドルシェルシュ・インコーポレイテッドで6件、3位はジボダン エス エーで3件でした。

 

2.7 上位3社の出願傾向

上位3社の出願件数の経時変化をグラフ化しました。

マツダは、例えば、イベントに参加するユーザの精神的な活性度としてWB値を推定するシステム(特許7132546)を出願していますが、この技術に関連する出願を複数行っています。

このように、1つの技術観点について複数の出願を行い、それらについて「ウェルビーイング」の文言を直接権利範囲に含めることを試みています。

アンドルシェルシュ・インコーポレイテッドは2005年から継続してウェルビーイングを意識した権利化を行っています。

ジボダン エス エーは、権利範囲にウェルビーイングを含めた出願を行っているのは2020年からであり、今後の動向が注目されます。

【図7】

 

2.8 タイトルや要約書からみたウェルビーイング発明の一例

ところで、各社が実際に出願したウェルビーイングに関する発明とはどのようなものなのでしょうか。

全ての技術分野を説明することはできませんので、1社1件に絞って、発明のタイトル、要約書の記内容や、課題などから抽出し、ご参考程度にその概要を整理してみました。

1)チームワーク可視化システム(特許7394422,METATEAM株式会社)

共通のチーム目的を有する任意のチームメンバーによって構成される対象チームについて、チーム目標の達成につながる行動成果を可視化し、継続的にチームの改善活動を支援するもの。

2)性ステロイド前駆体とSERMとの併用による男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の治療(特許7080117,アンドルシェルシュ・インコーポレイテッド)

低テストステロン及び/又は低末梢アンドロゲン形成による男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防する、低減させる又は消失させる方法に関するもの。

3)L-4-クロロキヌレニンの剤形及び治療的使用(特許6436913,ヴィスタゲン セラピューティクス、インコーポレイテッド)

L-4-クロロキヌレニンの組成物と神経機能障害の治療のための方法に関するもの。

4)患者監視システム及び監視する方法(特許5584413,コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ)

到来する医療データを利用して、治療にかなり重要な情報を検出及び表示し、治療の観点から重要なイベントを医療スタッフに警告するアラームを生成するもの。

5)仮想通貨管理装置及び仮想通貨管理方法(特許7177981,マツダ株式会社)

イベントに参加するユーザのウェルビーイング値に応じて生成された仮想通貨を第三者との間で取引する場合に、仮想通貨と法定通貨との変換率を適切に設定するもの。

6)癌治療のためのT細胞活性化及び/又はチェックポイント阻害剤を組み合わせたペプチド及びペプチド模倣物(特許6961897,株式会社キャンバス)

良性及び悪性の腫瘍細胞に関連するものなど、細胞増殖障害を治療するために使用することができるペプチド及びペプチド模倣物を含む化合物、ペプチド及びペプチド模倣物を伴う若しくは伴わないT細胞活性化剤及び免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせに関するもの。

7)ワークデザインプラットフォーム(特許7518578,株式会社ヴィス)

ワークデザインのプロジェクトを実施する前後のオフィスの働きやすさ・満足度・プロジェクトの効果を可視化して継続的なワークデザインの改善を行うこと、あるいは、人的資本への投資効果を可視化して定量的に検証すること、を目的としたもの。

 

3.おわりに:

2回にわたり、「ウェルビーイング」を含む特許出願が、近年急増していることをご紹介しました。

「商標」出願はそのマーク(商標)を実際のビジネスに使用することを前提に出願するものです。

一方、「特許」は、市場に受け入れられるかを判断する前に、先行して種をまいておく戦略として、利用されることも多いものです。

今回の結果からも分かる通り、ウェルビーイングと関連する発明は、健康との関連が強い傾向にあり、出願人は、医療分野の企業が多く含まれています。

個人的な印象ですが、例えばITや情報処理の分野の出願と比較しても、多くの外国企業が日本へ出願していると感じました。

日本は世界でもトップクラスの長寿国でもあり、医療や健康に関する事業が大きな市場であり、その意味でも外国企業が特許にも投資している動向があると推測します。

企業別に整理すると、商標出願と同様、特許出願においても、各社の個性が現れていて興味深いですね。

 

かなり長文と内容となりました。

最後までご覧いただきありがとうございました。

 

【参考文献】

特許情報プラットフォームJ-PlatPat

 

【関連コンテンツ】

・ウェルビーイングとビジネス ~商標出願から見たウェルビーイングの注目度について~

・続・ウェルビーイングとビジネス ~ウェルビーイングの発明とはどのようなものか?(その1)~

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