内容
1.はじめに:
2.ヤマト運輸のブランド力について:
2.1 「ブランド戦略サーベイ」、運輸関連企業が20以内に3社ランクイン:
2.2 商標出願総数は「日本郵政」が他を圧倒:
2.3 銀行・生保を抱えるマンモス企業の日本郵政を、運輸専業2社と比較するには無理がある:
2.4 宅配業(陸運業)に絞り込むと、商標出願総数はヤマト運輸が首位:
2.5 ヤマト運輸の長期の商標出願戦略がブランド力向上に寄与:
2.6 ヤマト運輸は、特許も注力している:
3.おわりに:
1.はじめに:
日経リサーチ株式会社が2024年度版の「ブランド戦略サーベイ」の結果を公表しました[i]。
ブランド戦略サーベイとは、コンシューマー(消費者)とビジネスパーソンの2つの視点から企業のブランド力を表す総合的な指標である「総合PQ」のランキングです。
今回のサーベイにおいて、日経リサーチのサイトには以下の記述があります。
「総合PQランキングでは2年連続でヤマト運輸が1位となりました。宅配便取扱個数は上昇基調にあり、「置き配」の本格解禁や協業などヤマト運輸が24年問題にむけて取り組む姿勢も評価されていると考えられます。」
今回のブログは、2年連続1位にとなったヤマト運輸のブランド力の要因を、運輸業3社の知財力を比較することにより、探ってみたいと思います。
2.ヤマト運輸のブランド力について:
まずは、「ブランド戦略サーベイ」の結果をみてみましょう。
同サーベイは、評価方法として、コンシューマーとビジネスパーソンそれぞれの評価5項目のスコアから算出した「コンシューマーのPQ」と「ビジネスパーソンのPQ」を統合した総合PQのスコアを導き出す手法を採用しています。
2.1 「ブランド戦略サーベイ」、運輸関連企業が20以内に3社ランクイン:
公表された2024年度の「ブランド戦略サーベイ」の結果によれば、上位5社(+α)の社名とスコア(カッコ内の数字)は以下の通りです。
1位 ヤマト運輸 (762)
2位 日本マイクロソフト(749)
3位 アップルジャパン (748)
4位 ソニーグループ (744)
5位 TOTO (727)
・・・・・・・・・・・・・・・・・
9位 日本郵政 (705)
14位 佐川急便 (688)
ブログ管理人は、1位のヤマト運輸、9位の日本郵政、そして14位の佐川急便の運輸関連企業3社に注目しました。
運輸業は生活インフラとして大変重要なサービスです。
このサービスは、インターネットが普及した現在の我々の生活には無くてはならいものとなりました。
それだけに日頃からサービスを活用する機会が増え、身近なブランドとして浸透していることが伺えます。
2.2 商標出願総数は「日本郵政」が他を圧倒:
ブランド力を支えるツールの1つに商標があります。
上記の運輸業3社の商標出願数を比較すると、日本郵政が他の2社を圧倒しています。
調査日:2024年11月30日
日本郵政:1189件
ヤマト運輸(ヤマトホールディングス株式会社orヤマト運輸株式会社):356件
佐川急便(SGホールディングス株式会社or佐川急便株式会社):191件
【図1】
2.3 銀行・生保を抱えるマンモス企業の日本郵政を、運輸専業2社と比較するには無理がある:
商標の出願数は、業界や取り扱う商品により違いがあることが報告されています(例えば、2012年特許庁報告書[ii])。
この点、日本郵政グループは、日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険を含んでいます。
具体的には、「郵便・物流事業」、「郵便局窓口事業」、「国際物流事業」、「銀行業」、「生命保険業」等の事業を営んでいます[iii]。
ヤマトホールディングスは、顧客セグメント単位に基づく「リテール部門」と「法人部門」の2セグメントにおいて事業を営んでいますが、基本的には、運輸業を中心とした企業です[iv]。
SGホールディングスは、「デリバリー事業」、「ロジスティクス事業」、「不動産事業」等の事業を営んでいますが、不動産事業の売上の割合は全体の中でも大きくなく、前者2つの運輸業を中心とした企業であるといえます[v]。
例えば、売上高で見ると、2024年3月期において、日本郵政は11.98兆円です。
これはヤマトホールディングスの1.76兆円、SGホールディングスの1.32兆円と比較すると、日本郵政がいかにマンモス企業であるかが分かります。
「商標の出願数は、業界や取り扱う商品により違いがある」点を考慮すると、銀行・生保を抱える日本郵政と、他の2社とを、商標出願数の観点で直接比較するのは無理がありそうです。
そこで、日本郵政グループに関しては、宅配を中心とした運輸関係に相当する「日本郵便株式会社」のみに絞り込んでみましょう。
2024年3月期における、日本郵便の売上高は3.32兆円でした。
それでも十分大きな事業であることが分かりますね。
【図2】
2.4 宅配業(陸運業)に絞り込むと、商標出願総数はヤマト運輸が首位:
日本郵便株式会社についての商標出願数を調べてみると、148件でした。
調査日:2024年11月30日
日本郵便株式会社:148件
ヤマト運輸(ヤマトホールディングス株式会社orヤマト運輸株式会社):356件
佐川急便(SGホールディングス株式会社or佐川急便株式会社):191件
このように宅配業(運輸業)に注目した3社に絞って比較すると、ヤマト運輸が他の2社を圧倒している結果となりました。
【図3】
2.5 ヤマト運輸の長期の商標出願戦略がブランド力向上に寄与:
上記で定義した宅配業(運輸業)3社について、商標出願数の推移を、5年毎にまとめてみました。
ヤマト運輸は、3社中、’21-‘24の期間こそ3位ですが、それ以外は全て1位の商標出願数を記録しています。
商標は、商品や役務の区分を指定して出願するため、必ずしも1つの登録商標が1商品や1サービスとしてカウントできるものではありません。
しかし、商標出願件数を長期間首位でキープできている点では、事業内容を拡大していく中で、商標というツールを上手に使ってブランド力を維持する戦略を有していることは明らかです。
宅配業(運輸業)は、他にも多くありますが、今回ご紹介している3社は商標登録出願をうまく活用させながら、確実にサービスの内容を充実している様子が浮かび上がります。
その中でもヤマト運輸は、長期に亘って登録商標件数を首位を堅持してきた点は、ブランド力向上に寄与しているといえそうです。
【図4】
2.6 ヤマト運輸は、特許も注力している:
商標はブランド力を支えるツールの1つですが、ブランド力の向上には、高品質のサービスや商品を提供し続けていくことがキーになります。
その延長線上で、発明などの創作活動が行われている場合もあるでしょう。
宅配を中心とした運輸サービスの技術的な創作活動を特許権等の権利として取得し、適正に品質を維持することが、場合によりブランド力を支える要因の1つになっているかもしれません。
そこで、特許と実用新案登録出願(以下、まとめて「特許出願」ともいう。)についても、みてみましょう。
商標と同様に件数をカウントした結果、特許出願の総数についても、ヤマト運輸が他の2社を圧倒する結果となりました。
SGホールディングスと佐川急便: 60件
ヤマトホールディングスとヤマト運輸: 169件
日本郵便株: 43件
ヤマト運輸は、商標だけではなく、特許にも注力している、つまり知財創作活動に力を入れている様子が分かります。
商標と同様、5年毎の累積件数の推移をグラフ化したものを図5に示します。
ヤマト運輸がいかに長期に亘って、特許等の創作活動にも力を注いでいるかが分かりますね。
【図5】
3.おわりに:
特許庁の報告書[vi]によると、商標管理関するヤマトホールディングスの特長として、
1.ホールディングス体制におけるグループ全体のブランドの構築・統一化を図るため、純粋持ち株会社が全商標を管理。グループに共通する商標について、グループ企業へのライセンスを行っている。
2.ロングセラーのブランドを守るため、商標権の侵害等を綿密にチェックする体制が採られている。
との記載があります。
ブランド力は一朝一夕には得ることができず、長く続けて愛される上で成り立つものです。
インターネットが普及した現代においては、サービスを通してブランド力をはぐくむ機会が増えています。
ブランド力を向上・維持するためのツールを上手に活用することがより重要となってきているともいえます。
長く愛される続けるには、事業立ち上げの初期段階から、商標や特許等をツールとして活用し続けること、つまり継続的な知財活動が、ブランド力向への大切な企業活動の1つとなっているといえそうです。
本日もご覧いただきありがとうございました。
【参考文献】
[i] ブランド戦略サーベイ2024総合評価ランキング|日経リサーチ (nikkei-r.co.jp)
https://service.nikkei-r.co.jp/service/bss/brand-ranking
[ii] 「企業のブランド構築に着目した商標の出願・活用に関する状況調査」平成23年度商標出願動向調査報告書(概要),平成24年4月、特許庁
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F11152230&contentNo=1
[iii] 日本郵政株式会社 有価証券報告書 第19期
[iv] ヤマトホールディングス株式会社 有価証券報告書 第159期
[v] SGホールディングス株式会社 有価証券報告書 第18期
[vi] 「企業のブランド構築に着目した商標の出願・活用に関する状況調査」平成23年度商標出願動向調査報告書(概要),平成24年4月、特許庁