内容
1.はじめに:
2.知的財産推進計画2025の概要:
2.1 計画項目:
2.2 【ここが動く!】2025年、法改正のカギを握る知財トピックとは?
2.3 【委託・提案のチャンスも?】2025年に動きそうな「委員会・調査研究」テーマ
2.4 【知っておきたい】意匠もスタートアップ向けの「早期審査」の実施!
3.おわりに:
1.はじめに:[i]
日本の知的財産戦略が、また一歩前進します。
2025年版『知的財産推進計画』が発表され、昨年からの流れを継承しつつも、社会の変化を見据えた新たな重点領域が打ち出されました。
本記事では、2024年との違いを比較しながら、企業や研究者が押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。
※知的財産推進計画とは何か?については、こちらを参照下さい。
2.知的財産推進計画2025の概要:
2.1 計画項目:
「IPトランスフォーメーション」を掲げた2025年の知的財産推進計画。
今回の計画は、(少し誇張気味ですが)“変革”を意識した構成になっているのが特徴です。
その方向性は、大きく4つのテーマに分かれています。
1.知的財産の「創造」 (1) 知財・無形資産への投資による価値創造 (2) AI と知的財産権 (3) 創造人材の強化・ダイバーシティの実現 2.知的財産の「保護」 (1) 技術流出の防止 (2) 海賊版・模倣品対策の強化 (3) 産業財産権制度・運用の強化 (4) 地域における知財保護 3.知的財産の「活用」 (1) 産学連携による社会実装の推進 (2) スタートアップ支援 (3) 新たな国際標準戦略 (4) データ流通・利活用環境の整備 4.新たなクールジャパン戦略のフォローアップ (1) 新たなクールジャパン戦略の実装 (2) コンテンツ戦略 |
2024年版では独立した柱として位置づけられていた「高度知財人材の戦略的な育成・活躍」は、2025年では「知的財産の『創造』」の中に統合されました。
この再編からは、人材育成が“検討対象”から“実行フェーズ”へと移行しつつある姿勢が感じられます。
2.2 【ここが動く!】2025年、法改正のカギを握る知財トピックとは?
2025年の知的財産推進計画には、今後の法改正につながる重要テーマがいくつも盛り込まれています。
これらは単なる政策の方向性にとどまらず、企業実務、とくに知財部門のマネジメントに直接影響を与えうる内容です。
下記に挙げる(1)〜(6)のテーマを押さえておくことで、近い将来の制度改正を先読みすることができます。
特に注目したいのは、下記(1)のAI発明における「発明者」の再定義、そして下記(5)の国境を越えるネットワーク発明の法的位置づけ。
これらは今後、マスメディアでも取り上げられる可能性が高く、実務インパクトも大きいポイントです。
(1)AI 利用発明の発明者の定義等について検討を進め、法改正を含めた必要な措置を講ずる。(1.知的財産の「創造」(2) AI と知的財産権を参照)
(2)意匠審査実務上の課題やその他の意匠制度に生じる課題について、産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会において検討を進め、法改正を含めた必要な措置を講ずる。(1.知的財産の「創造」(2) AI と知的財産権を参照)
(3)特許表示の機能向上等を含めた知的財産の侵害を抑止するための適切な制度的手当のあり方を検討し、法改正を含めた必要な措置を講ずる。(2.知的財産の「保護」(2) 海賊版・模倣品対策の強化、 及び(3) 産業財産権制度・運用の強化を参照)
(4) リヤド意匠法条約について、国内ユーザーへの周知や条約加入に対するニーズの聴取等を進め、国内法整備や条約加入に関する検討を行う。(2.知的財産の「保護」(3) 産業財産権制度・運用の強化を参照)
(5)ネットワーク関連発明における国境を跨いだ発明の実施について、発明の構成要件の一部が国外にある場合であっても、実質的に国内の実施行為と認める要件の明文化について、産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会において検討を進め、法改正を含めた必要な措置を講ずる。(2.知的財産の「保護」(3) 産業財産権制度・運用の強化を参照)
(6) 仮想空間におけるビジネスやデザイン創作の実態を踏まえ、意匠制度見直しの必要性及び制度的措置の方向性について、産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会において検討を進め、法改正を含めた必要な措置を講ずる。(2.知的財産の「保護」(3) 産業財産権制度・運用の強化を参照)
2.3 【委託・提案のチャンスも?】2025年に動きそうな「委員会・調査研究」テーマ
2025年の推進計画の中には、今後の政策形成に向けた調査研究・委員会活動が多数示唆されています。これらは政策の“種まき”フェーズであり、委託調査や有識者参加のチャンスにもつながる領域です。
とくに、コンサルティングや政策提言、また大学や民間シンクタンクで調査研究を行っている方にとっては、アンテナを立てておきたいテーマが揃っています。
IPランドスケープ、中堅企業支援、教育分野、さらには海外向けコンテンツ政策まで、知財の広がりを象徴するテーマが見えてきます。
(1)知財・無形資産の投資・活用の促進に向けて、知財・無形資産ガバナンスガイドラインの考え方を更に普及・浸透を図る方策を検討する。(1.知的財産の「創造」(1) 知財・無形資産への投資による価値創造を参照)
(2) IP ランドスケープの活用等の中堅企業等における知財・無形資産の投資・活用に関する実態や課題の調査を行い、当該投資・活用の在り方を検討する。(1.知的財産の「創造」(1) 知財・無形資産への投資による価値創造、及び2.知的財産の「保護」(4) 地域における知財保護を参照)
(3) アントレプレナーシップ教育の場における知財に関する教育の効果的な手法について調査する。(1.知的財産の「創造」(3) 創造人材の強化・ダイバーシティの実現<知財創造教育の推進> を参照)
(4) 海外の現地の人々に向けて日本のコンテンツを配信する海外の海賊版サイト等の巧妙化・多様化に対応し、在外公館等を通じた現地の言語での周知啓発、海賊版サイト等に関する情報提供のインセンティブ付与等の在り方の検討(2.知的財産の「保護」(2) 海賊版・模倣品対策の強化を参照)
(5)イノベーション創出の促進に向けて、外国語書面出願制度に関するユーザーニーズ等調査を実施する。(2.知的財産の「保護」(3) 産業財産権制度・運用の強化を参照)
(6) DX 時代にふさわしい産業財産権制度の在り方について検討する。(2.知的財産の「保護」(3) 産業財産権制度・運用の強化を参照)
(7)国内外の大学の産学連携活動(例:技術移転、ライセンス、共同研究活動)に関する実態把握及びベストプラクティスの収集・分析に関する調査研究を実施する。(3.知的財産の「活用」(1) 産学連携による社会実装の推進を参照)
(8) 2033 年までに20 兆円とする目標の基礎となる日本発のコンテンツの海外市場規模の範囲について、知財の多元展開の観点も含めた指標設定の考え方について検討する。(4.新たなクールジャパン戦略のフォローアップ(2) コンテンツ戦略を参照)
(9) コンテンツ産業の就業者数、市場規模等の継続的な把握に必要な統計データ等の整備の在り方について検討する。(4.新たなクールジャパン戦略のフォローアップ(2) コンテンツ戦略を参照)
2.4 【知っておきたい】意匠もスタートアップ向けの「早期審査」の実施![ii]
既に2025年4月から開始していますが、意匠制度にもスタートアップ向けの早期審査制度が導入されました。これは、時間との戦いを強いられるスタートアップにとって朗報です。(3.知的財産の「活用」(2) スタートアップ支援を参照)
3.おわりに:
知財政策はちょっと堅いテーマに思えるかもしれませんが、その中にはビジネスやクリエイティブの可能性を広げる種がたくさん潜んでいます。
今後も、本ブログではそうした「知財のリアル」を、分かりやすく・実務的にお届けしていきます。
今回も最後までご覧いただきありがとうございました。
【参考文献】
[i] 内閣府 知的財産戦略本部「知的財産推進計画2025 ~IPトランスフォーメーション~」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/chitekizaisan2025/pdf/suishinkeikaku.pdf
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/chitekizaisan2025/pdf/suishinkeikaku_gaiyo.pdf
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[ii] 意匠早期審査・早期審理制度の概要https://www.jpo.go.jp/system/design/shinsa/soki/isyou_soukisinri.html