内容
1.はじめに:
2.30分で注目市場の勝ち筋を読む方法:
2.1 1つのキーワードで市場の変化を見る:
2.2 関連キーワードを用いて非“言葉の流行”でないことを検証する:
2.3 誰が未来市場に賭けているのか(競争地図):
2.4 抽出したキーワードの“&検索”で企業思想を推測する:
2.5 さらに精度を高めたい方へ:
3.まとめ|未来は検索欄に眠っている:
4.今日の一歩:
1.はじめに:
脱炭素という言葉は、ニュースにも政策にも日常的に登場するようになりました。
しかし、市場の未来はニュースではなく「特許公報」に現れます。
企業が未来へお金を張る場所 が最速で可視化される唯一のデータ、それが特許です。
なぜ特許が“未来の地図”になり得るのか。その理由は、特許が企業の「資金と時間の投資記録」だからです。
特許は単なる発明の証明書ではありません。
企業が「どの領域に投資し、どこで勝とうとしているのか」を示す“意思表明”そのものです。
本稿では、誰でも無料で利用できる特許庁データベース(J-PlatPat)[i]を使い、
“脱炭素”の切り口を例に 市場の波/競争地図/企業思想 の三層を30分で読み解く方法をご紹介します。
2.30分で注目市場の勝ち筋を読む方法[ii]:
2.1 1つのキーワードで市場の変化を見る:
まずは「脱炭素」の特許出願件数を年度別に集計してみます。
直近2年は未公開案件を含むため除外しつつ数値を見ると、2020年頃から急増していることが分かります。

この急増を政策・社会の動きと照合すると、2019~2020年に日本政府の方針転換が集中しています。
つまり、国家の舵切り→企業の特許投資行動へ直接依存 しているという関係性が見えてきます。
2.2 関連キーワードを用いて“言葉の流行”でないことを検証する:
ではこれは単に、いままで様々な言葉で表現していたものを共通のキーワードである「脱炭素」という言葉に言い換えただけなのでしょうか?
比較のため、関連語句である 低炭素/カーボンニュートラル も調べました。

結果は明確で、
時系列では 低炭素 → カーボンニュートラル → 脱炭素 の順に波が動いています。
- 低炭素|改善・効率化の時代(燃費改善/工程改善など)
- カーボンニュートラル|説明の時代(企業全体を“中立”に見せる概念)
- 脱炭素|構造転換と成長の時代(新エネルギー転換)

この入れ替わりは 企業の投資テーマの変化=市場構造の変動 を意味します。
しかし、単に入れ替わっているだけではなく、一度下降トレンドになった「低炭素」は、2020年を底にして再び上昇トレンドになっているのです。
2.3 誰が未来市場に賭けているのか(競争地図):
同じ検索結果から “出願件数の多い企業”の上位を抽出すると、
プレイヤーは時期によって大きく入れ替わっています。

◆低炭素期の牽引役: 自動車/鉄鋼/電機
→ CO₂削減の“連続改善技術”の舞台と言えます。
◆カーボンニュートラル期の牽引役: 印刷/化学/住宅/IT
→ 排出管理・説明責任・横断的概念が台頭している。
→ ゼロボードのようなESG管理系プレイヤーが急浮上している。
◆脱炭素期の牽引役: 自動車/電機・精密
→ “未来の市場を取りに行く宣言”としての特許に注力している。
これらから読み取れる結論はシンプルです。
「脱炭素」は、環境対策の言葉ではなく、未来の成長領域を確保するための“競争言語”へ変わっている。
特許は“過去の技術の説明書”と思われがちですが、
経営者視点で見れば、将来のキャッシュフローを取りに行く地点の宣言になっているのです。
2.4 抽出したキーワードの“&検索”で企業思想を推測する:
企業思想は“言葉遣い”に宿ります。
特許明細書内に“複数キーワードが同時に書かれている出願”を調べると、
企業の思想があらわに浮かび上がってきます。
特許は技術を説明する文書に見えますが、「何に時間と予算を投じたか」が露骨に表れるため、企業の未来戦略の写像になります。

どういうことか。例えば:
- 低炭素 & 脱炭素の結果を見ると、
→ ホンダが圧倒的に首位。これは、低炭素という改善の延長線上に「脱炭素」という脱出点がある。連続進化型とみなせます。 - カーボンニュートラル(CN)&脱炭素の結果を見ると、
→ ミサワホームが突出。“いま必要な説明” と “将来の成長” の両方を同時に見据えて特許を出している企業と推測されます。 - 三語(低炭素&CN&脱炭素)同時併記の結果を見ると、
→ ゼロボードがトップ。過去・現在・未来を一文脈(一出願)で束ねる高度な文脈設計です。あらゆるCO2削減政策に関わっていく強い意思表示です。
ご自身が注目する市場は日頃から、専門性のあるキーワードが頭にあるはず。
この調査はわずか30分程度でできるにも関わらず、
企業の思想・未来の勝ち筋 がくっきり立ち上がってきます。
特許明細書は情報の倉庫ではありません。
これは「思想のインタビュー」である、
そう解釈して読むだけで、
一見、冷たいと思われる技術関連文書が“未来のシナリオ”へと一気に変わります。
2.5 さらに精度を高めたい方へ:
今回は、キーワード検索を行いましたが、J-PlatPatにはIPC等の特許分類コードを用いた検索も可能です。
キーワード入力を特許分類コードに代えて検索したり、あるいはキーワードと特許分類コードを併用して検索することにより、ターゲットとなる市場分析の精度を高められる場合があります。
興味のある方はぜひお試しください。
3.まとめ|未来は検索欄に眠っている:
本稿では、脱炭素という1つの切り口から
- 言葉の波 → 市場構造の変化
- 出願件数 → 競争プレイヤーの浮上
- 同時併記 → 企業思想の深層
という三層構造で未来を読み解きました。
特許は、誰でも見られます。
特許の専門知識がなくても、30分程度あれば“未来の兆し”は掴めます。
ぜひ今日から、知財を“未来を見るレンズ”の1つとして持ってみてください。
本日もご覧いただきありがとうございました。
4.今日の一歩:
この記事を読み終えた今、
あなたができる最も小さなアクションは 検索窓に1つキーワードを入れること です。
あなたの事業領域で「未来を示す言葉」は何ですか?
その1語を入れて検索するだけで、
次の3年の競争相手と、まだ誰も気づいていないヒントが見えてきます。
そして、もし今日あなたが“検索してみた1語”をノートに残したなら、
それは未来の気付きが芽を出す“最初の証拠”になるはずです。
【参考文献】
[i] https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
[ii] 公知日を2010/01/01~2025/11/29としてJ-PlatPatを用いて検索
[iii] パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(令和元年6月11日閣議決定)
https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/post_41.html
[iv] TCFDコンソーシアム | 報道発表資料 | 環境省
https://www.env.go.jp/press/106805.html
[v] 地方公共団体における二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況 | 地域脱炭素 | 環境省
https://www.env.go.jp/policy/zerocarbon.html
[vi] 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 (METI/経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/index.html
