特許第7636622号 | 登録日:2025年2月17日 | 権利者:BASE株式会社
1.はじめに:あなたの会社にも「取れる特許」がある
特許と聞くと、「難しいアルゴリズム」「先端技術を持つ大企業の話」と思っていませんか?
今回ご紹介するのは、「セレクトショップがブランドの商品を取り扱うには、必ず許可を得なければならない仕組み」を特許にした会社の話です。
複雑な機械学習も、難解な暗号技術も関係ありません。
「申請して、許可してもらって、初めて販売できる」——これだけに着目した特許です。
今までは、この「これだけ」がなかったため、ブランド(出品者)は困っていました。
そして、この「これだけ」を仕組みとして実現して特許化したことで、BASE株式会社は強力な競争優位を築きました。
これはスタートアップ経営者こそ注目すべき特許戦略の教科書です。
2. BASE:誰でもネットショップを開けるECサービス
BASE株式会社は、初期費用・月額費用ゼロで誰でもネットショップを開設できるECプラットフォーム「BASE」(ベイス)を運営する会社です。
2012年創業、個人クリエイターから中小ブランドまで幅広く支持されています。
その成長の中で生まれた新たな需要が、「セレクトショップ」という業態でした。
自分の感性でブランド商品を集め、自分のECサイトで販売する——この仕組みを実現しようとしたとき、ブランド(出品者)側にとって、ある解決できない課題が浮き彫りになりました。
| 「一度商品を登録してしまうと、コンセプトが全く違う無関係なショップに、知らないうちに自社ブランドが並べられてしまう」 |
一度でも出品者側やその関係者側になった経験のある人ならピンと来たはずです。
そうです。ブランド(出品者)が守りたいのは売上だけではありません。
どんな文脈で自社の商品が売られるか、という「ブランドイメージ」そのものです。
3. 許可制ECシステム:ビジネスフローが生んだ権利
なぜこの特許がすごいのか
新しい素材でも、最先端の機械学習でもなく、「動く順番とルール設計」に注目して特許にした——これがこの特許の本質です。
発明の内容を一言でいうと、「セレクトショップが商品を選んで申請し、ブランド(出品者)が許可して初めて販売可能になる」仕組みです。流れはシンプルです。
- セレクトショップが取り扱いたい商品を選択・申請する
- システムがブランド(出品者)に申請情報と申請者の情報を通知する
- ブランド(出品者)が「許可する/しない」を判断し、結果を送信する
- 許可された商品だけが、そのセレクトショップのECサイトで販売可能になる
特許公報の図10を見ると、この4つのステップが視覚的に一目でわかります。

4. クレームには動作の連鎖が記載されている
「誰が誰に何を通知し、どの条件で状態が変わるか」という動作の連鎖が、1つのシステムとして請求項で1にまとめられています。
請求項1の特徴部分を、“ぎゅっ”と、まとめてみると、以下になります。
| 取扱情報と商品に関する情報とを用いて推薦商品を抽出し第2ユーザの端末に表示させるステップと、
第1ユーザが出品した商品情報の入力を受け付けるステップと、 第2ユーザの操作により第1ユーザの商品の選択を受け付けるステップと、 第2ユーザの情報と商品情報とを第1ユーザの端末に通知するステップと、 第1ユーザの操作により許可するか否かの判断結果を受け付けるステップと、 第2ユーザのECサイトにおいて許可された商品を販売可能な状態にするステップ |
難しそうに見えますが、要は「ブランド(出品者)が許可しないと売れない仕組みを、システムとして実装する」と書いているだけです。
ここで注目すべき点が2つあります。
①数値も素材の限定もない。
「何日以内に返答」「どんな商品カテゴリ」といった数値的な縛りがまったくありません。
フローと状態変化だけを権利にしているので権利の範囲が広く、競合が類似の仕組みを作りにくくなっています。
→これは、アイデアを深堀りしなくて良いという事を意味していません。
むしろ弁理士などの専門家も巻き込んでアイデアを徹底的に深掘りした上で、上位概念の権利範囲を取ることが重要となります。
②「推薦機能」もメインクレームに含めた。
単なる許可制だけでなく、セレクトショップのコンセプトに合う商品を自動推薦する機能まで、最初の請求項1に組み込んでいます。
さらに他の請求項で、在庫管理・自動許可条件・断られたときのリカバリーまで周辺機能を積み上げています。
→世の中の類似の考え方との比較で、どこまで踏み込んで書くべきかを、弁理士と相談の上、進めることがポイントです。
違いだけを並べて差別化を図って請求項1に記載することも可能ですが、並べすぎると自社のビジネスの範囲とは異なる方向の権利しか取れなくなってしまうこともあります。
この点も弁理士とよく相談しながら進めることが重要となります。
5. スタートアップへの3つの学び
学び①「動作のフロー」はそれ自体が特許になる
特許は製品そのものだけでなく、「誰が誰に何を許可するか」というビジネスフローを権利化できます。
ソフトウエアに例えると、処理の手順書に特許を取るイメージです。BASEの事例では、「申請→通知→許可判断→販売可能化」という動作の連鎖が1本の請求項にまとめられています。
| 今日からできること: 自社のサービスの中で「この順番でないと成立しない動き」を書き出してみてください。ユーザー間で許可・承認・通知のやりとりがあれば、それが特許の種になる可能性があります。 |
学び②「本体」でだけではなく「ルール設計」にも注目する
BASEのコアビジネスはECプラットフォームです。
しかし今回の特許は「許可制という仕組みのルール」の話です。
ECの技術自体は模倣されにくくても、「誰でも自由に売れる」という運用ルールは真似されやすい。
そこで「許可を必要とするルール設計」を特許化することで、プラットフォームのエコシステム全体を守る戦略を取っています。
| 今日からできること: 自社の主力サービスに「セットで使われるルール」「ユーザー間の承認フロー」を書き出してください。そこにも権利化の余地がないか、弁理士に相談してみましょう。 |
学び③スピードも戦略のうち——早期審査制度を使い倒す
この特許は2024年8月22日に出願され、2025年2月17日に登録されています。通常1〜2年かかる審査が、わずか約6ヶ月で完了しています。
早期審査制度を活用して、権利化を加速させています。
6. まとめ:今日から特許を「攻めの経営ツール」として使う
BASEの特許から学べることを一言でまとめると、
| 「技術の工夫や改善だけではなく、ビジネス・フローの工夫も参入障壁になる」 |
ということです。
自社のサービスや製品を振り返ってみてください。
- ユーザーが「このやり方でないと使えない」と思っている操作の流れはありますか?
- 主力製品・サービスに「セットで使われるルール」や「承認フロー」はありますか?
- 製造や販売の観点で自社単独で工夫した点はありますか?
これらはすべて、特許の候補です。
特許は取ってからが本番ではありますが、「取れるかどうか考えたことがなかった」という段階から抜け出すことが最初の一歩です。
今回もご覧いただきありがとうございました。
ご相談はこちらから。
<参考文献>
・J-PlatPat 特許第7636622号「プログラム、情報処理装置、及び方法」
・BASE株式会社 有価証券報告書(2025年12月期)
・BASE, Inc. 企業サイト https://binc.jp/about/profile
※本記事は公開情報をもとにブログ用に整理したものです。特許の説明については、法律上の権利範囲の解釈を示すものではありません。
