あなたが考えた新規事業のプロジェクトが特許になる ~ビジネスモデル特許について~

特許

内容
1.はじめに:
2.ビジネスモデル特許とは:
3.ビジネスモデル特許の出願数が多い分野:
4.ビジネスモデル特許の出願成長率が高い分野:
5.ビジネスモデル特許の具体例:
6.まとめ:

1.はじめに[1]

以下は、2020年に出願されたビジネス関連発明のうち上位3分野です。

(1)サービス業一般(宿泊業、飲食業、不動産業、運輸業、通信業等)
(2)EC・マーケティング(電子商取引、オークション、マーケット予測、オンライン広告等)
(3)管理・経営(社内業務システム、生産管理、在庫管理、プロジェクト管理、人員配置等)

意外と思われる分野はありましたでしょうか?自社・自部門は特許とは縁遠いと考えていた方には、特許に興味を持っていただけるきっかけになったかもしれません。今回は、さまざまなビジネス上のアイデアが特許になっている、ビジネスモデル特許を取り上げてみたいと思います。

 

2.ビジネスモデル特許とは:

ビジネスモデル特許とは、コンピュータを使ってビジネスのアイデアを実現する発明です。特許庁の定義によれば、「ビジネス関連発明とは、ビジネス方法がICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用して実現された発明」と説明しています。

ビジネスモデル特許は、米国で登録されたことがきっかけに、日本でも2000年頃に急激に出願が増加しました。その後、下火になりましたが、登録率の上昇と共に出願数が増加し、再び話題になることが多くなってきました。2000年の特許査定率は10%程度だったのが、2020年には74%まで上昇しています。

人間が人為的に決めた思想やアイデアそのものだけでは特許の保護対象にはなりませんが、コンピュータを用いて実現することにより登録が認められることがあります。特許査定率の上昇も、時代と共に、どのように表現すれば特許となるかについての理解の浸透が進んできたともいえそうです。

 

 

3.ビジネスモデル特許の出願数が多い分野:

下の図はビジネスモデル特許の分野別の出願数の推移を示しています。出願数の多い分野としては、サービス業一般、EC・マーケティング、管理・経営、金融分野が挙げられます。

分野別ビジネス関連発明の出願件数の推移

サービス業一般とは、宿泊、飲食、不動産、運輸、通信業等に関するビジネスです。EC・マーケティングとは、電子商取引、オークション、マーケット予測、オンライン広告等が含ます。スマホを介したサービスなどからも馴染みのある分野かもしれません。管理・経営とは、社内業務システム、生産管理、在庫管理、プロジェクト管理、人員配置等が含まれます。

これ以外の第二次産業、エネルギー、第一次産業、教育、公共サービスなどは、年間の出願の数自体はそれほど多いようには見えません。

 

4.ビジネスモデル特許の出願成長率が高い分野:

別の視点で見てみます。下の図は2014年から2020年の出願数の推移を元に、年平均成長率(CAGR)を求めた結果のグラフです。

ビジネス関連発明の成長率

成長率に関しては、農業・漁業・鉱業等の第一次産業が24.7%とトップになっています。2位は、管理・経営とは、出願数と共に成長率と高くなっています。3位は、製造業・建設業等の第二次産業であり、続いて公共サービスが4位となっています。

出願数の多かった、サービス業一般や、EC・マーケティング分野に関しては、成長率に関しては他の分野ほど高くなっていません。但し、近年の日本の特許出願数の成長率が伸び悩んでいることを考慮すれば、実は約8%の成長率は高い数字と言えます。逆に言うと、第一次産業の24.7%という成長率は極めて高い数字なのです。このように、ビジネスモデル特許は、近年、非常に注目されている特許といえます。

 

5.ビジネスモデル特許の具体例:

ビジネスモデル特許の一つに「いきなりステーキ」のステーキの提供方法に関するものがあります。これは判例として新聞などの報道がされたこともあり、日本で一番有名なビジネスモデル特許の1つともいえるでしょう。

これ以外にどのようなビジネスモデル特許があるのでしょうか。ここでは、現時点での出願数はそれほど多くはないものの、急激な出願数の成長がみられる、第一次産業に注目してご紹介したいと思います。特許庁サイトによれば、第一次産業のビジネスモデル特許に対応するFI(特許分類)は、「G06Q50/02」です。以下に2020年の出願で、特許となっているものの内、7つをまとめてみました(2023年7月3日現在)。権利範囲を説明するものではなく、ビジネスモデル特許とはどんなものかに興味を持っていただけるように構成してみました。

 

(1)「農作業支援システム、農作業支援方法及び農作業支援プログラム」 特許6962609、登録日:2021.10.18、出願人/権利者:NECプラットフォームズ株式会社

作業者が、自身が行った作業に対する分析結果を把握できると共に、その作業を踏まえて推奨される作業方法を把握することができる発明。作業者による作業効率を向上させることができると共に、例えば、農作業者が次に剪定すべき枝が矢印で示されるなど、農作業の効率を高めることができる。具体的には、下記①~③を実施する農作業支援方法(請求項6に相当)。

①作業者の広範囲に在る複数の植物を撮影した第1画像と、作業者が選択した作業項目とを用いて決定された作業方法を、作業者のウェアラブル端末に表示する。

②ウェアラブル端末が、近くの植物を撮影して第2画像を生成する。

③第2画像に基づく作業者が行った作業の分析結果と、第2画像と分析結果を用いて決定された推奨作業方法を、ウェアラブル端末が表示する。

 

(2)「情報処理装置、情報処理方法、及び、プログラム」 特許6944561、登録日:2021.9.14、出願人/権利者:株式会社日本総合研究所

無人農業機械の動作の優劣は、プログラムや学習モデルの種類・バージョン、制御パラメータ値などの影響を受ける。そこで、作業ノウハウが詰まったプログラムなどをインストールして、能力を向上させる発明。具体的には、コンピュータが下記①~③を実施する情報処理方法(請求項10に相当)。

①作業機械の動作を制御するための第1データを取得する。

②第1データを利用して実際に制御されたことを示す第2データを、作業機械と同一又は関連する種類の第1作業機械が取得する。

③作業機械と同一又は関連する種類の第2作業機械の利用者の通信端末から、第1データの配信要求を取得する。

④配信要求と第2データが取得されたことに応じて、通信端末又は第2作業機械に、第1データを配信する。

 

(3)「情報処理装置」 特許7053083、登録日:2022.4.4、出願人/権利者:サグリ株式会社

農地の評価を適正に行えるようにする発明。これにより、例えば、農家が金融機関から低金利で迅速に小口融資を受けることができる。具体的には、複数の情報処理装置から構成される情報処理システムの内、少なくとも1つの情報処理装置が下記①~③を実施する情報処理方法(請求項7に相当)。

①上空から撮像された所定領域の元画像と、農家の圃場を示す第1単位の1以上の領域に所定領域が区分されたデータとの紐づけに対して、第2単位毎にラベリングによる意味付けをして教師データを生成する。

②生成された教師データを用いた機械学習を行うことで、上空から撮像された処理対象領域の撮像画像を入力すると、処理対象領域が第1単位の1以上の領域に区分された区分情報を出力する。

③新たな撮像画像を取得してモデルに入力することで、区分情報を出力する。

 

(4)「畜産情報管理システム、畜産情報管理サーバ、畜産情報管理方法、及び畜産情報管理プログラム」 特許6882802、登録日:2021.5.11 出願人/権利者:株式会社Eco‐Pork

膨大な数の家畜に対するイベント(作業)について管理し、イベントの実施結果について漏れなく確認できる発明。具体的には、下記①~②を実施する畜産情報管理方法(請求項15に相当)。

①家畜(群)の飼養状態が遷移したタイミングに関する履歴情報と、イベント予定マスタ情報に含まれる家畜(群)の飼養のために実施するイベントを実施すべきタイミングとイベントの次のイベントの順序や、実施するまでのタイミングを示すイベント間隔情報を比較して、家畜(群)に対してイベントを実施したか否かを判定し、否であると判定された家畜(群)を抽出する。

②抽出した対象家畜と実施すべきイベントをユーザに表示する。

 

(5)「作業管理システム」 特許7050874、登録日:2022.3.31 出願人/権利者:株式会社クボタ

走行経路マップに基づいて作業走行する作業車の作業を、より適切な形態で管理できる発明。具体的には、下記①-③の機能を有する作業管理システム。

①作業地に設定された走行経路マップに沿って作業走行する作業車の作業内容を、走行経路マップ単位で走行経路マップとリンクして格納する。

②走行経路マップを検索条件として、作業履歴格納部から作業内容を抽出する。

③抽出された作業内容の表示データを生成する。

 

(6)「食肉管理システム」 特許6823746、登録日:2021.1.13 出願人/権利者:ALSOK千葉株式会社

野生鳥獣から得られた食肉が食肉として妥当であるかを管理できる発明。具体的には、下記①-③の機能を有する食肉管理システム。

①データベース。

②データベースに、野生鳥獣の情報を登録する登録手段。「野生鳥獣の情報」とは、駐停車場に駐停車した車両において捕殺された野生鳥獣の画像、捕殺された日時及び場所を含む捕殺情報を含む。

③データベースに登録された野生鳥獣の情報に基づいて、加工施設で加工された肉が食肉として妥当か否かを判定する判定手段。「判定手段」は、捕殺情報に含まれる野生鳥獣が捕殺された場所と、予め定めた駐停車場の場所とが一致していれば、野生鳥獣から得られた肉は食肉として妥当であると判定する。

 

(7)「栽培支援装置、及び栽培支援方法」 特許7112597、登録日:2022.7.26 出願人/権利者:株式会社アクアソリューション

ナノバブル水を効果的に利用した作物栽培を行えるように栽培者を支援する発明。具体的には、コンピュータに下記①-⑥を実行させる、栽培支援方法(請求項13に相当)。

①ナノバブル水の利用条件に関する第1情報を、作物の栽培者毎に取得する。

②栽培の成果に関する第2情報を、栽培者毎に取得する。

③栽培者毎の第1情報及び第2情報から、利用条件と成果との対応関係を特定する。

④成果に対する指定を受け付ける。

⑤作物についての利用条件以外の栽培条件に関する第3情報を、栽培者毎に取得する。

⑥栽培期間中における作物の生育状態に関する第4情報を、栽培者毎に取得する。

⑦対応関係に基づき、指定された成果に応じた利用条件を導出する。

上記③は、栽培者毎の第1情報、第3情報及び第4情報から、利用条件及び栽培条件と栽培期間中における作物の生育状態との1次対応関係を特定し、且つ、栽培者毎の第2情報及び第4情報から、栽培期間中における作物の生育状態と成果との2次対応関係を特定して、1次対応関係及び2次対応関係を含む対応関係を特定する。

上記④で指定を受け付けた場合、⑦の工程において、コンピュータは、対応関係に基づき、成果の指定を行った栽培者の第3情報が示す栽培条件と対応し、且つ指定された成果に応じた利用条件を導出する。

 

6.まとめ:

ご覧いただいて分かるように、ビジネスモデル特許とは、自社が企画・考案したビジネスの手法や処理を時系列に並べ、それらの処理をコンピュータを用いて実行させるように表現したものです。

複数の事業を抱える大企業における新規ビジネスの開発だけではなく、スタートアップなど、ゼロから会社を興して新たな価値を提供していく経営者のみなさんにとっても、自社のビジネス手法を特許として押さえておくことが重要になる場合もあります。

経営者の方だけではなく、例えば、企画部門に所属するあなたが考えたプロジェクトそのものが特許になる可能性があります。将来のビジネス領域を確保する意味でもビジネスモデル特許の視点を頭の片隅においておくことも今後益々重要になると考えらえます。

 

本日も最後までご覧いただきありがとうございました。

【参考文献】
[1] ビジネス関連発明の最近の動向について  特許庁

 

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