コーチング技術と特許 ~企業文化に視点をおいたビジネスモデル特許~

特許

内容

1.はじめに:
2.コーチング事業の特許事例
2.1 株式会社コーチ・エイ
2.2 システミック・コーチングTMを提供
2.3 特許の概要
2.4 コーチング情報のシェア実現による組織全体の変革の実現
3.おわりに:

 

1.はじめに:

今回はコーチング事業をとりあげます。

コーチング技術自体は、特許で保護される技術ではありません。

どのような切り口で特許出願しているかに注目です。

 

2.コーチング事業の特許事例

2.1 株式会社コーチ・エイ[i]

今回取り上げる特許は、株式会社コーチ・エイのものです。

同社の企業情報の一部を下記に示します。

2.2 システミック・コーチングTMを提供

同社はシステミック・コーチングTMを提供しています。以下は2022年12期の有価証券報告書に記載された事業内容からの抜粋です[ii]

一方で、当社グループはシステミック・コーチングTMを提供しています。システミックとは、全体を不可分な一体と捉えることを意味します。問題のある部分を見つけて修正するのではなく、全体に働きかけるのが、システミックなアプローチです。組織の中では、様々な領域、階層において、人々が異なる意見や価値観を持ち寄り、互いに影響しあうことによって、様々なアイディアが共創されます。そのため、ある特定の個人をどれだけ強固なリーダーとして能力開発しても、その能力が発揮されるか否かは、周囲との関わり次第です。当社では「リーダー開発」と「組織開発」は本来不可分なもので、両者は同時に開発されていくことが自然であると捉えています。個人の能力開発だけでなく、周囲と「どう関わっていくか」という関係性までを扱うコーチングとして、システミック・コーチングTMを提供しています。具体的には、部門の生産性向上を目標と定めたリーダーにコーチングを行う場合、従来のコーチングに加え、部下や部下間、他部門との関係などの関係性に関するテーマを多く扱うことで、コーチング対象者を起点に組織全体に新たな対話を起こします。その対話から生まれるアイディアや部門間のコラボレーションによって、リーダーとしての能力及び部門や組織のパフォーマンスを向上し、目標達成を目指します。

 

2.3 特許の概要[iii] [iv]

ご紹介する特許は、特許5758058号です。

2015年3月に出願されています。

同社の設立は2001年ですので、事業が軌道に乗ってからの特許であると推測されます。

今回は、請求項5を見ていきます。

【請求項5 】

クライアントの端末である第1 端末と、指導者の端末である第2 端末とが管理サーバを介して通信可能に接続される場合のコーチング支援方法であって、

前記第1 端末は、

前記クライアントが前記クライアントの関係者に対して実施する第1 コーチングの実施予定日時を示す時間情報の入力を受け付け、

前記時間情報を前記管理サーバに送信し、

前記第1 コーチングの履歴を示すコーチング履歴情報を含むコーチング情報の入力をさらに受け付け、

前記コーチング情報の入力を受け付けた場合に、前記コーチング情報を前記管理サーバにさらに送信し、

前記管理サーバは、

前記第1 端末からの前記コーチング情報を前記時間情報と関連づけて記録し、

前記指導者が前記クライアントに実施する第2 コーチングにおいて、前記時間情報と関連づけられた前記コーチング情報が利用可能となるように、少なくとも該コーチング情報を少なくとも前記第2 端末に送信する、

コーチング支援方法。

まとめると、この発明は、下記(1)-(4)を行う「コーチング支援方法」と考えられます(注)。

  • クライアント端末にて下記(1)(2)を行う。

(1)クライアント(例「上司」)がその関係者(例「部下」)に行う「第1コーチング」の予定日時の入力を受け付けて管理サーバに送信する。

(2)第1コーチングの履歴を含む「コーチング情報」の入力をさらに受け付けて管理サーバに送信する。

  • 管理サーバにて下記(3)(4)を行う。

(3)クライアント端末からの「コーチング情報」を「第1コーチング」の予定日時と関連づけて記録する。

(4)指導者がクライアントに行う「第2コーチング」において、「第1コーチング」の予定日時と関連づけられたコーチング情報を指導者の端末に送信する。

注):この記載は、あくまで本ブログ向けに簡易にまとめた記載であり、実際の権利範囲を正しく反映したものとは異なります。

 

2.4 コーチング情報のシェア実現による組織全体の変革の実現

この発明によれば、コーチング情報を、クライアント、コーチ、ステークホルダー(例えば、部下や同僚)間でシェアでき、第2コーチングの際に活用できる。その結果、コーチは、クライアントがクライアント関係者に対して適切なコーチングを実施するように、当該クライアントを適切に支援でき、ステークホルダーに対しても、クライアントからのコーチングを通して自発的な行動変革を促すことができ、組織全体の変革を実現できる。

つまりコーチング情報のシェアという観点で特許を出願していると言えそうですね。

 

3.おわりに:

同社のHPに以下の記載があります。

Story1

「なぜ、コーチ・エィの社員はこんなによく話すのか」とよく言われます。私たちは、お客様に対しても「対話によってイノベーションが生まれる」と伝えますし、社内においても、大事なことは一人でコツコツ仕事をすることではなく、周囲と情報共有し、質問しあい、話しあうことだと言っています。これはコーチ・エィの企業カルチャーといえるでしょう。しかし、社員たちは、コーチ・エィに入ってからこの色に染まったわけではなく、多くはそもそも対話によって重きを置いている人がコーチ・エィに入ってきているように感じます[v]

今回ご紹介した特許の内容は、まさに情報共有が1つのキーワードです。同社の企業カルチャーに視点を当てた特許であるともいえそうです。

本日もご覧いただきありがとうございました。

 

【参考文献】
[i] 株式会社コーチ・エイ HP
https://www.coacha.com/
[ii] 株式会社コーチ・エイ有価証券報告書2022年12期
https://pdf.irpocket.com/C9339/cEro/KhEZ/vMD0.pdf
[iii] 特許5758058号
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-5758058/15/ja
[iv] 特許庁のサイトのビジネスモデル特許の説明において、IPC又はFIとしてG06Qが付与された特許出願をビジネス関連発明と定義しています。特許庁「ビジネス関連発明の最近の動向について」https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/biz_pat.html
[v] コーチ・エイHP
https://career.coacha.com/about/message.html

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