【速報】知的財産推進計画2024公表 ~知財エコシステムの再構築と新たなクールジャパン戦略の推進~

知財全般

内容

1.はじめに:
2.知的財産推進計画2024の概要:
2.1 「国内のイノベーション投資の促進」【創造】
2.2 「AIと知的財産権」【創造】
2.3 「海賊版・模倣品対策の強化」【保護】
2.4 「標準の戦略的活用の推進」【活用】
2.5 「研究開発における人材育成・流動化」【人材】
2.6 「新たなクールジャパン戦略/コンテンツ戦略」
3.おわりに:

 

 

1.はじめに:[i] [ii]

6月4日に内閣府 知的財産戦略本部より、知的財産推進計画2024(案)が公表されました。

今回のブログは、その概要と今年度の特徴をご紹介します。

※知的財産推進計画とは何かについては、以前のブログを参照下さい。

 

2.知的財産推進計画2024の概要:

~イノベーションを創出・促進する知財エコシステムの再構築と「新たなクールジャパン戦略」の推進に向けて~というタイトルです。

今年度は、我が国がイノベーション創出を牽引するために、国内におけるイノベーション投資の促進、技術流出の防止、標準の戦略的活用の推進など知財の創造・保護・活用全般にわたり施策の見直しが必要ではないかという問題意識の下、今一度、「知的創造サイクル」という原点に立ち戻り、このサイクルを支える高度知財人材の戦略的な育成・活躍という「人材」の視点も入れ、検討を進めて整理しています。

本ブログでは、知的財産推進計画2024の概要版の項目に挙げられた重点項目の予定(方向性)を抽出し、これに詳細版を補足事項の形でまとめてみました。

エッセンスだけに焦点を当てていますので、是非ご覧ください。

 

2.1 「国内のイノベーション投資の促進」【創造】

・2024年度税制改正において措置された、特許権やAI分野のソフトウェアの知財から生じる所得に税制措置を適用するイノベーション拠点税制(イノベーションボックス税制※)について、2025年4月の制度開始に向け、手続規定の整備を含めた執行体制の強化を行う。

・事業者が積極的に制度を活用できるよう、制度をわかりやすく解説したガイドラインの策定制度の周知等を業界団体等とも連携して行うとともに、引き続き、税制の対象範囲については、制度の執行状況や効果を十分に検証した上で、執行可能性等の観点から、状況に応じ、見直しを検討する。
・以上いずれも、(短期・中期)(経済産業省)

イノベーションボックス税制:
2000年代より欧州を中心に導入され、近年はインド、シンガポール、香港等にも広がり、日本も2023年12月に導入が決定。
日本の制度は、国内で自ら研究開発を行った特許権やAI分野のソフトウェアの知的財産から生じる所得に税制措置を適用するもの。
研究開発拠点としての立地競争力を強化し、民間企業による無形資産投資の後押しとして期待される。
2025年4月から執行を進め、状況や効果を検証した上で、状況に応じ見直しを検討していく。

 

2.2 「AIと知的財産権」【創造】※

・AI時代の知的財産権検討会「中間とりまとめ」等を踏まえ、AI技術の進歩の促進と知的財産権の適切な保護が両立するエコシステムの実現に向けて各知的財産法とAIの適用関係や各主体に期待される取組例等について周知し、取組を促進する。
(短期・中期)(内閣府(知財)、経済産業省、総務省、文化庁)

・生成AIについて、文化庁文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」に基づき、著作権制度等に関し、必要に応じた更なる明確化に向けた検討と、検討結果の周知を継続的に行う。
(短期・中期)(文化庁)

・ 生成AIにおける俳優や声優等の肖像や声等の利用・生成に関し、不正競争防止法との関係について、必要に応じ、見直しの検討を行う。
(短期・中期)(経済産業省、文化庁、特許庁、法務省、消費者庁)

・生成AI及びこれに関する技術についての共通理解の獲得、AI学習等のための著作物のライセンス等の実施状況、海賊版を掲載したウェブサイトに関する情報の共有など、関係当事者間における適切なコミュニケーションを促進する。
(短期・中期)(文化庁、経済産業省)

・2023年度の調査研究結果(「AIを利活用した創作の特許法上の保護の在り方に関する調査研究」)を踏まえつつ引き続き深掘り検討を行う。
(短期・中期)(特許庁)

創作非容易性等の意匠審査実務上の課題やその他の意匠制度に生じる課題について諸外国の状況も踏まえて整理・検討する。
(短期・中期)(特許庁)


・AIと著作権の関係については、文化審議会著作権分科会法制度小委員会が「AIと著作権に関する考え方について」を公表(2024年3月15日)。
・著作権以外を含む知的財産権との関係については、AI時代の知的財産権検討会が「中間とりまとめ」を公表(2024年5月)。
AI時代の知的財産権検討会では、発明の保護の在り方について、以下の検討を行っている。
・「発明者」の要件は、現時点での技術水準を見れば、AI自身が、人間の関与を離れ、自律的に創作活動を行っている事実は確認できておらず、依然として、自然人による発明創作過程で、その支援のためにAIが利用されることが一般的であるといえ、発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者を発明者とするこれまでの考え方に従って自然人の発明者を認定すべき。
➡今後、技術等の更なる進展により、AIが自律的に発明の特徴的部分を完成させることが可能となった場合の取扱いは、引き続き必要に応じた検討を特許庁は関係省庁と連携の上で進めることが望ましい。
・「AIの利活用拡大を見据えた進歩性等の特許審査上の課題」は、現時点では、発明創作過程におけるAIの利活用の影響によりこれまでの特許審査実務の運用を変更すべき事情があるとは認められないとした。例えば、進歩性や記載要件の判断は、幅広い技術分野における発明創作過程でのAIの利活用を含め、技術常識や技術水準を的確に把握した上で判断を行うべきとしている。
➡この点、特許庁は2023年10月にAI担当官を13名から39名に増員。2024年4月にAI担当官への研修・助言を行うAIアドバイザー(外部有識者)3名を新規設置など体制を拡充。2024年3月にはAI関連技術に関する審査事例を10事例を新たに公表。
➡他方、AI技術がより発展した場合など、イノベーションの成果を適切に保護することができなくなる可能性もあり、引き続き影響を把握する必要がある。
・意匠分野においても、最新動向の把握と共に審査実務における対応について検討を進める必要がある。

 

 

2.3 「海賊版・模倣品対策の強化」【保護】

・ 海賊版対策に係る民間及び関係府省庁の実務者級連絡会議を開催し、最新情報の共有等を図りながら、インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニューに基づく取組を官民一体となって進める。
(短期・中期)(内閣府(知財)、警察庁、総務省、法務省、外務省、文化庁、経済産業省)

・ インターネット上の国境を越えた著作権侵害等に対し国内権利者が行う権利行使への支援の取組の充実を図る。
(短期・中期)(文化庁)

・ インターネット上の違法・有害情報への対応として、削除対応の迅速化や運用状況の透明化を大規模プラットフォーム事業者に義務付けるためのプロバイダ責任制限法の改正14(2024年5月)に基づき、省令等の制度整備や、ガイドライン等を通じ、どのような情報を流通させることが法令違反や権利侵害となるかの明確化、及びそれらの適切な運用を図るなど、プラットフォーム事業者に対する実効的な対策を推進する。
(短期・中期)(総務省)

・ 海外の現地の人々に向けて日本のコンテンツを配信する海外の海賊版サイト等の巧妙化・多様化15に対応し、在外公館等を通じた現地の言語での周知啓発、海賊版サイト等に関する情報提供のインセンティブ付与等の在り方の検討、海外市場における日本コンテンツの正規版の流通促進などの健全なエコシステムの促進に向けた取組を、官民一体となって推進する。
(短期・中期)(内閣府(知財)、総務省、外務省、文化庁、経済産業省)

 

2.4 「標準の戦略的活用の推進」【活用】※

・ 新規市場の創出、国際競争力の強化等を目的とした、産学官による国際標準の戦略的な活用の取組(国際標準戦略)について、政府全体で統括して総合的に推進する体制を知的財産戦略本部において強化する。
(短期)(内閣府(知財、科技)、総務省、外務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、関係府省)

・ 経済安全保障、環境ルール、先端技術等、我が国の産業・社会等へのインパクトが大きい等の観点から、戦略的に国際標準の活用を推進する代表的な領域(戦略領域)等を設定し、有識者が国際標準戦略を推進する、またはアドバイザーとして支援する体制を整備する。
(短期)(内閣府(知財、科技)、総務省、外務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、関係府省)

・ 我が国としての総合的な標準戦略(国家標準戦略)について、先行するEU・中国・米国の国家標準戦略、知的財産戦略本部で2006年12月策定の「国際標準総合戦略」のレビュー、2023年6月の経済産業省の日本産業標準調査会による取りまとめ文書、2024年2月の(一社)日本経済団体連合会による提言等を踏まえ、2025年春目途に策定し、戦略領域、民間企業の行動変容促進、人材育成やエコシステム整備等に係る取組を強化する。
(短期・中期)(内閣府(知財、科技)、総務省、外務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、関係府省)


(現状と課題)
<国際ルール形成の活発化>
世界的に、国際ルールの形成が著しく進展している。
社会の価値観に関わるルールのグローバルな影響力は非常に強い。
国際ルール形成をいかに先取りするかが、国際競争力に直結する状況にある。
<国際標準の影響力拡大>
中でも国際標準は影響力が非常に拡大。
特に民間で国際標準化を行う場は、ISOの他に多く存在し、質が深化、量が拡大している。
国際標準は、民間主体でルール形成を行える余地が大きい。
政府主体で形成されたルールに紐付き、致命的な市場規制効果を持つこともある。
<国際標準を巡る主要国の競争>
欧米企業は、国際標準を経営戦略やビジネス戦略として当然視。
主要国も、国家戦略として競い合うよう推進。
日本は、2006年の「国際標準総合戦略」以降、長らく整備されていない。
<戦略的な活動を支えるエコシステム>
(1) 産学官の行動変容:
日本は、未だ重要性が十分浸透せず、戦略性も十分ではない。
特に民間企業では、技術的仕様や試験測定方法、評価方法等に偏重し国際標準化が自己目的化しがち。
行動変容を促す施策を改めて強化する必要がある。
(2) 国際標準戦略に投入する資源(人材、資金、体制等)の脆弱さ:
特に民間で、国際会議への派遣人員や投資資金が削減される傾向。
(3) 民間企業の国際標準戦略に基づく事業活動を促進する支援基盤の脆弱さ:
支援基盤として、外部機関や専門性に優れた外部人材、そして政府で広く構成されるエコシステムが、十分に整備されていない。
民間からは、取り組むべき領域や方策等を共有する場を政府が率先して整備する支援ニーズが挙げられている。

 

2.5 「研究開発における人材育成・流動化」【人材】

・ 我が国の博士号取得者数の増加等を目指し、博士後期課程学生の処遇向上等に加え、産業界における採用拡大など博士人材が社会の多様なフィールドで活躍する社会の実現に向けて、博士人材の民間企業における活躍のための手引き・ガイドライン(仮)、博士人材の活躍状況の透明化、博士課程学生に対するキャリア支援体制、ジョブ型研究インターンシップ等について産業界とも連携して検討を行う。
(短期・中期)(経済産業省、文部科学省)

・ 博士後期課程学生の処遇向上と研究環境確保(SPRING)として、優秀で志のある博士後期課程学生が研究に専念するための経済的支援(生活費相当額及び研究費)及び博士人材が産業界等を含め幅広く活躍するためのキャリアパス整備(企業での研究インターンシップ等)を一体として行う実力と意欲のある大学を支援する。
(短期・中期)(文部科学省)

 

2.6 「新たなクールジャパン戦略/コンテンツ戦略」[iii] [iv]

*経済産業省、及び内閣府(知財)に関する部分を抽出しました。

〇基幹産業として、海外展開に関するデータを充実させ、PDCAサイクルを高速に回す

コンテンツ産業を基幹産業と位置付け、戦略的に取り組むため、PDCAサイクルを高速に回しながら、産業の成長、国際競争力の強化、海外展開の推進に取り組む。コンテンツ産業の海外展開などに関し、目標値を設定し、KPIとなるデータを整備しつつ、見える化を図るとともに、こうしたデータに基づき、官民で進捗状況を確認しながら取組を進めていく。

○ 日本発のコンテンツの海外市場規模を、2033年までに20兆円とすることを目標値として設定する。参考として、2028年までに10兆円の規模とすることを中間的な目標とする。併せて、目標値の計測に必要な統計データ等の改善・整備について、検討を行う。
(内閣府(知財)、関係府省)

○ 地方の魅力の発掘・磨き上げに取り組む高付加価値化の優良事例を収集し、アカデミア等との連携を通じて、体系化・フレームワーク化し、成功要因やノウハウを抽出する。ワークショップ等を通じて、地域への落とし込みや横展開を図るとともに、人材育成に取り組む。
(内閣府(知財))

○ 地方公共団体や企業等によるアート投資を促し、アーティスト等に資金が還元される環境を整備するため、地域における公共空間や遊休空間などのアーティスト等への積極的な開放、企業等が保有する十分に活用されていない美術品などの積極的な活用等を行う。また、これらの基盤強化を通じて、世界的アーティストを輩出しやすい環境整備を図る。
(経済産業省)

○国内の美術館や企業等が保存している日本の世界に誇る生活文化を形作った日本企業の工業製品や、きものを含むファッション等のデザイン資源を活用できる基盤を整備する。このため、自国の産業競争力強化や次世代デザイナーの育成を行うとともに、観光資源としても活用されている海外の事例を参照し、国内の美術品を保有する機関と連携しながら、これからの時代のアーカイブの在り方の検討を進める。
(経済産業省)

○地域におけるクールジャパンの担い手、人材の高度化を図るため、プロデューサーやアドバイザーの招聘を支援する。また、地域における取組を支援するために、地方のアカデミアとの連携を図る。
(内閣府(知財)、関係省庁)

○政府首脳や財界要人の外国訪問時、国際会議や海外イベント等において、アニメやマンガのキャラクターなど日本が培ってきた強いIPを活用したトップセールスに関する方策を検討し、継続的に実施していく。
(内閣府(知財)、関係府省)

 

3.おわりに:

いかがでしたか?

新たなクールジャパン戦略は別紙となっており、万博を控えていることもあり、注力度の高さが伝わってきます。

イノベーションボックス税制は、2025年4月からの執行に向けて、経営者の方も引き続き注視すべき項目といえそうです。

国際標準戦略については、本文において10ページを超えた説明しており、長期視点においても注視していきたい項目と言えそうです。

今回のブログのひとつでも自社のビジネスへの参考なるものがありましたら幸いです。

本日も最後までご覧いただきありがとうございました。

【出典】
[i] 知的財産推進計画2024の概要
[ii] 知的財産推進計画2024本文
[iii] 新たなクールジャパン戦略の概要
[iv] 新たなクールジャパン戦略

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