’24春開始の本制度、対応は進んでいますか? ~特許出願の非公開制度(1):制度概要~

特許

内容

1.はじめに:
2.特許出願の非公開制度:
2.1 非公開制度とは:
2.2 本制度の趣旨(必要性):
2.3 本制度の構成:
2.4 本制度の大まかな流れ:
(A)第1国出願義務
(B)一次審査
(C)保全審査
3.おわりに:

 

1.はじめに:

今回は特許出願の非公開制度をとりあげます。

特許法の基本原則である「発明の公開による利用」とは、方向性が異なる制度です。

知財に限らず技術管理をされている方々に関係してくると考えられます。

そこで、(1)制度の概要と、(2)審査の流れ、の2回に分けてご紹介します。

以下は2023年11月現在の情報を元に作成しています[i] [ii]

ご利用の際には最新の情報も併せて確認してください。

 

2.特許出願の非公開制度:

2.1 非公開制度とは:

本制度は、特許出願の明細書等に、国家・国民の安全を損なうおそれが大きい発明が記載されている場合に、「保全指定」により、出願公開などが留保される制度です。秘密特許制度と表現する方が理解しやすいかもしれません。

 

2.2 本制度の趣旨(必要性):

技術の創出は、経済的・社会的発展をもたらし、国力の源泉となります。

技術の適切な活用は、安全保障環境の維持・改善にも重要です。

ただし、技術の中には、国家・国民の安全を損ないかねないものがあり、拡散して外部から行われることの未然防止が必要です。

外為法による安全保障貿易管理制度がありますが、不特定多数への「公開」は非対象です。

技術論文は、公開は自由が原則であり、国際的に見ても、自律的な研究倫理等に委ねることが実効的と考えるのが一般的です。

しかし、特許出願の出願公開は、出願から一定期間経過後に、発明内容が公開されます。

そこで、一定の場合には、「保全指定」により、出願公開等を留保して情報流出を防止するのが本制度です。

 

2.3 本制度の構成:

本制度は「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」[iii](以下、「法」)に規定されています。

この法は、全体が7章(1条-99条)で構成され、本制度は5章(65条-85条)及び7章(92条等)に規定されています。

ここでは、全体の流れを、(A)第1国出願義務、(B)一次審査、(C)保全審査の3つに分けて説明します。

2.4 本制度の大まかな流れ:

(A)第1国出願義務

日本国内でした発明であって、国家・国民の安全を損なうおそれが大きいおそれがあるなど、保全対象になりうる発明は、日本国特許庁への第1国出願義務が課されます(法78条1項)。

異なる視点で表現すれば、第1国出願義務は、発明完成地が日本で、第1国が外国出願を予定する場合には、自社自身でその発明が保全対象であるか否かを判断する義務が課されるものです。

(B)一次審査

日本国特許庁へ特許出願すると特許庁長官が一次審査を実施し、特定技術分野に該当するか、付加的要件に該当する場合は、出願書類等が、内閣総理大臣へ送付されます(法66条)。

「特定技術分野」とは、公にすることにより外部から行われる行為によって国家・国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類(IPC)又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めたものです(法66条1項)。

一次審査中は、拒絶査定、特許査定、出願公開が留保されます。

(C)保全審査

送付された発明が、保全対象発明に該当するか否かを、内閣総理大臣が審査し、該当する場合には、保全指定を行います(法67条)。

保全指定された発明は、実施制限や開示禁止などが課されます。

3.おわりに:

本制度の運用開始は2024年春と言われています[iv]

既に対応する仕組みを検討し、改めて技術漏洩防止を徹底する企業も多いと思います。

一方、内閣府が公開する資料には、上述の趣旨に加え、出願を自重していた発明について、安全保障上の懸念なく先願の地位を確保でき、発明のモチベーションの向上を図る点もうたっています。

この観点で、本制度の検討を進める場合には、次回の「審査の流れ」も併せてご覧いただくと参考になるかもしれません。

本日もご覧いただきありがとうございました。

特許出願の非公開制度(2)        特許出願の非公開制度(3)

 

【参考文献】

[i] 特許法の出願公開の特例に関する措置、同法第三十六条第一項の規定による特許出願に係る明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置に関する基本指針 令和5年4月28日閣議決定
https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/kihonshishin4.pdf

[ii] 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針 令和4年9月30日閣議決定
https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/kihonhoushin.pdf

[iii] 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律 令和4年法律第43号。令和4年5月11日成立、同月18日公布。
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/20820220518043.htm

[iv] 特許出願の非公開制度の運用開始に向けた検討状況について 令和5年6月
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r5_dai7/siryou2.pdf

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