内容
1.はじめに:
2.(A)第1国出願義務について:
2.1 日本国内でした発明か?(A-1)。
2.2 第1国が外国出願か?(A-3)
3.(B)一次審査について:
3.1 「特定技術分野」と「付加的要件」の判断(B-1,4):
3.2 一次審査の効果(B-6)
3.3 政令の内容確認が必要:
4.(C)保全審査について:
4.1 保全対象発明に該当するか否かを総理が審査(C-1)。
4.2 継続意思の確認(C-4):
4.3 保全指定の効果(C-8):
4.4 指定の延長・解除(C-10、11):
5.おわりに:
1.はじめに:
前回は特許出願の非公開制度の概要をご紹介しました。
今回は、前回示したA~Cの各ステップをフロー図を用いてご紹介します。
以下は2023年11月現在の情報を元に作成しています[i]。
実際の検討には最新情報も併せて入手してください。
各フロー図には、できる限り「法」※の条文番号を数字で示していますので参考にしてください。
※「法」:「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」[ii]
2.(A)第1国出願義務について:
日本国内でした発明であって、国家・国民の安全を損なうおそれが大きいおそれがあるなど、保全対象になりうる発明は、日本国特許庁への第1国出願義務が課されます(法78条1項)。
2.1 日本国内でした発明か?(A-1):
「日本国内でした発明」とは、本店所在地にかかわらず、発明の発明地が日本国内を意味します。
発明完成地が日本でない場合は(A-1・N)、本制度の対象外です(A-2)。
但し、例えば、米国で完成した発明は、第1国出願を米国にする決まりとなっているので、発明完成地での法律には従う必要があります。
2.2 第1国が外国出願か?(A-3):
発明完成地が日本の場合(A-1・Y)、第1国が外国出願か否かで取り扱いが異なります(A-3)。
大切な点としては、「外国出願」とは、外国における出願及び特許協力条約(PCT)に基づく国際出願をいう点です。
(1)第1国が外国出願の場合(A-3・Y)、その発明が保全対象になりうるかを自社で判断する必要があります(A-4)。
その発明が保全対象ではないと判断する場合(A-4・N)、本制度の対象外です(A-2)。
その発明が保全対象になりうる場合(A-4・Y)、保全対象か否かの判断を特許庁長官に求める「事前確認制度」の利用が可能です(A-5)。
(2)第1国が外国出願でない場合(A-3・N)、保全対象発明か否かの判断をすることなく日本国特許庁へ出願が可能です(A-6)。
(3)このように、第1国出願義務とは、発明完成地が日本で、第1国が外国出願を予定する場合には、自社自身でその発明が保全対象であるか否かを判断する義務が課されるものです。
保全対象発明を外国出願してしまうと、懲役あるいは罰金、またはこれらの併科となるので注意が必要です(法94条1項)。
3.(B)一次審査について:
日本国特許庁へ特許出願すると特許庁長官(長官)が一次審査を実施し、特定技術分野に該当するか、付加的要件に該当する場合は、出願書類等が、内閣総理大臣(総理)へ送付されます(法66条)。
3.1 「特定技術分野」と「付加的要件」の判断(B-1,4):
(1)「特定技術分野」とは、公にすることにより外部から行われる行為によって国家・国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野です。
特定技術分野は、国際特許分類(IPC)又はこれに準じて政令[iii]で定められ(法66条1項)、状況変化に応じて機動的に見直しを行うようです。
1つの発明に、複数のIPCが付与される場合は、少なくとも1つが特定技術分野であれば総理に送付されます。
(2)「付加的要件」とは特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きい技術分野として、技術分野以外の角度からもう一つの絞り込みを付加したものです(法66条1項本文)。
したがって、特定技術分野は、付加的要件がないものと、付加的要件があるものの2種類に分かれます。
付加的要件も政令に定められています。
(3)特定技術分野に該当しない(B-1・N)、あるいは、付加的要件に該当しない(B-4・N)場合、保全審査の対象外との通知がなされます(B-2)。
(4)特定技術分野に該当し(B-1・Y、かつB-3・N)、あるいは、付加的要件に該当する(B-4・Y)場合、その発明の内容が総理へ送付され、出願人にはその旨が通知されます(B-5)。
3.2 一次審査の効果(B-6)
(1)一次審査中は、拒絶査定、特許査定、出願公開が留保されます(B-6)。
この留保期間は3カ月以内です。長官はこの期間内に一次審査を終了することとなります。
(2)留保期間中でも、手続補正や出願審査請求、拒絶理由通知等のその他の特許手続が止まってしまう訳ではない点は留意が必要です。
3.3 政令の内容確認が必要:
「特定技術」と「付加的要件」は政令で定められ、見直しも行われます。
企業によっては定期的に政令を確認するルールを作る等の対策が必要になるものと考えられます。
4.(C)保全審査について:
送付された発明が、保全対象発明に該当するか否かを、総理が審査し、該当する場合には、保全指定を行います(法67条)。
4.1 保全対象発明に該当するか否かを総理が審査(C-1):
(1)保全対象発明に該当しないと判断した場合(C-1・N)、その旨が出願人へ通知されます(C-2)。
(2)保全対象発明に該当すると判断した場合(C-1・Y)、その旨が出願人へ通知されます(C-3)。
(3)C-2、またはC-3の通知までは、出願人は発明内容の公開が禁止されるので注意が必要です(法68条)。
違反すると総理は保全審査を打ち切ることができ、その後、出願却下となります(法69条)。
4.2 継続意思の確認(C-4):
該当通知(C-3)とともに出願の継続意思の確認がなされます(C-4)。
(1)継続意思がない場合(C-4・N)、出願取下げが可能です(C-5)。
(2)継続意思がある場合(C-4・Y)、保全指定がされ、その旨が出願人へ通知されます(C-6)。
(3)保全指定(C-6)までは、拒絶査定、特許査定、出願公開が留保されます。
この留保期間は10か月以内です(C-7)。
4.3 保全指定の効果(C-8):
保全指定されると図に示したような取り扱いがなされます(C-8)。
ここでは、特に重要と考えられる3つをご紹介します。
③発明の実施が制限されます(法73条)、違反すると懲役または罰金となり(法92条1項6号)、出願却下となります(法73条8項)。
④発明の内容の開示が禁止されます(法74条)。違反すると懲役または罰金となり(法92条1項8号)、出願却下とされることがあります(法74条2項)。
⑦外国への出願が禁止されます(法78条)。違反すると懲役または罰金となり(法94条1項)、出願却下となります(法78条7項)。
4.4 指定の延長・解除(C-10,11):
保全指定の期限内に保全指定の継続が必要か否かが判断されます(C-9)。
(1)継続必要との判断の場合(C-9・Y)、延長の決定と、通知がされます(C-10)。
(2)継続不要との判断の場合(C-9・N)、指定の解除と、通知がされます(C-11)。
継続必要性を減少させる事情としては、より高度な技術の開発など、機微性が低下した場合、民生利用への展開など、保全指定が経済活動やイノベーションへの影響が増大した場合、国内外における同じ技術の論文発表等、保全の価値が低下した場合、が想定されます。
5.おわりに:
2回にわたり特許出願の非公開制度をご紹介しました。
本制度の運用開始は2024年春の予定です[iv]。
本制度に対応して、出願しない仕組みを徹底させる企業、あるいは、第1国出願義務や保全指定の効果を理解した上で、出願を試みる企業、それぞれあると思います。
後者の場合には、「特定技術」「付加的要件」の内容については常に最新の情報を採り入れるような取り組みが必要となります。
本日もご覧いただきありがとうございました。
【参考文献】
[i] 特許法の出願公開の特例に関する措置、同法第三十六条第一項の規定による特許出願に係る明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置に関する基本指針 令和5年4月28日閣議決定
https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/kihonshishin4.pdf
[ii] 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針 令和4年9月30日閣議決定
https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/kihonhoushin.pdf
[iii] 特許出願の非公開に関する制度 – 内閣府
[iv] 特許出願の非公開制度の運用開始に向けた検討状況について 令和5年6月
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r5_dai7/siryou2.pdf