内容
1.はじめに:
2.世界の知的財産使用料ランキング、日本は3位:
3.日本の黒字要因の6割はアジアから:
4.産業財産権(特許等)の使用料は黒字で推移:
5.著作権は赤字が続く:
6.まとめ:
1.はじめに:
ニュースなどで知的財産権(知財)の使用料の話題がとりあげられることがありますが、知財は儲かるものなのでしょうか。今回は知的財産権使用料の収支の観点から、日本の知的財産権の実力について見ていきたいと思います。
2.世界の知的財産使用料ランキング、日本は3位:
下記の図は、世界各国の知的財産使用料(収支)のランキングです[1]。
この報告によれば、1位は米国で、収支額は断トツの813億ドルです。2位はドイツ。日本は3位に位置していますが、米国の20%強に当たる186億ドルに留まっています。4位以下は、英国、オランダ、デンマークと続きます。ニュースなどで中国は特許出願数世界一という情報が報告されたりしますが、使用料収支の観点では、2021年の段階では、上位50位以内にランクインしていません。
3.日本の黒字要因の6割はアジアから:
日本の黒字はどの地域からの要因が大きいのでしょうか。財務省が公表する国際収支統計[2]に「知的財産権等使用料収支の地域別推移」が掲載されています。
*国際収支状況(国際収支統計):一定期間における居住者と非居住者の間で行われたあらゆる対外経済取引を体系的に記録した統計。
知的財産権等使用料収支は、経常収支(貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の合計)の中のサービス収支に分類されます。地域別推移を見ると、図に示したように2014年-2022年の期間において、+1.6兆円~+2.6兆円の範囲で黒字で推移していることが分かります。この8年間の年平均成長率(14-22年CAGR)は+4.4%でした。但し、直近5年(18-22年)に絞り込むと1.7%の成長に留まり、成長が鈍化しています。
最新の結果である2022年の黒字額は約2.5兆円です。この約2.5兆円の内の約6割に当たる約1.7兆円が対アジアの黒字であることが分かります。また、対北米は約0.9兆円の黒字を確保していますが、対欧州は’19年から赤字が続いています。
4.産業財産権(特許等)の使用料は黒字で推移:
特許行政年次報告には、産業財産権という切り口で、使用料の収支の推移が公表されています[3]。それよれば、2019年で3.4兆円の黒字とのことです。上述したように同年の知的財産権等使用料収支は2.2兆円の黒字ですから、算出期間の同期がとれていると仮定すると、収支の対象が産業財産権等から知的財産権等に広げてみると、黒字額が減少しているという結果になります。つまり、産業財産権以外の知的財産権が赤字となっていることとなります。
5.著作権は赤字が続く:
赤字となっている知的財産権とは何を指しているのでしょうか。文化庁の定義によれば、知的財産権とは、下記の図に示すように、特許権等の産業財産権、著作権、及びその他の権利に分類されます。
つまり、赤字の要因は著作権であることが推測されます。実際、2003年の論文になりますが、著作権等使用料では、伝統的な著作物である文芸・美術・音楽等の著作物使用料ではなく、ソフトウェアに係わるロイヤリティーが大半を占め、著作権等使用料は恒常的に赤字であるとの報告がなされています[4]。
6.まとめ:
日本の知的財産使用料(収支)は、世界ランキングで3位です。但し、1位の米国とは大きく差が開いています。
日本の知的財産使用料(収支)は黒字で推移しており、14-22年のCAGRは+4.4%ですが直近は成長が鈍化しています。2022年の黒字要因の最大は対アジアからのもので、黒字額全体の約6割を占めます。
日本の産業財産権(特許等)の使用料は黒字を確保していますが、著作権は赤字が続いています。
最後までご覧いただきありがとうございました。
【参考文献】
[1] 一般財団法人 国際貿易投資研究所 https://iti.or.jp
[2] 国際収支状況(財務省)
[3] 特許行政年次報告書2022年版
[4] 山口英果「特許等使用料収支の黒字化について」https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2004/data/wp04j05.pdf
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