特許出願技術動向調査とは? ~3C分析やSWOT分析にも活用できる身近な知財情報源~

特許

内容
1.はじめに:
2.特許出願技術動向調査とは:
3.調査報告書の閲覧 :
4.分野別調査結果(平成29年度~令和4年度):
5.令和5年度の特許情報調査(分野別):
6.まとめ:

 

1.はじめに:

競争戦略を検討する上で、「戦略の第一歩は戦わないこと」と言われることがあります。知財戦略を考える上でも、いかに競合と争わないようにするかは、経営者だけではなく、知財部門にとっても極めて重要なことだと考えられます。先日ご紹介した知財推進計画も情報源の一つでしょうが、あくまで国の取り組みの一端が分かることに留まります。より自社のビジネスに密着した。あるいは直結した動向が知りたい場合もあるでしょう。
特許庁では、毎年、特許出願技術動向調査を実施し、その一部については結果の概要を公表しています。どのような情報が公開されているかを見ていきたいと思います[1]

 

2.特許出願技術動向調査とは:

特許庁は、毎年、国内外の特許、意匠、商標の出願の動向を調査・分析する「出願動向調査」を行っています。特定分野のテーマから、分野横断的なものまで様々です。中でも、「特許出願技術動向調査」は、注目度の高い技術テーマを対象に、その特許出願動向等を調査して技術トレンドをつかみ、日本の研究開発の方向性を見定めるものとの説明があります[2]
特許出願技術動向調査には、特許動向調査、市場環境調査、政策動向調査、研究開発動向調査などがあり、有識者委員会を開催して助言を得た後、報告書としてまとめられます。特許庁の審査、企業・大学・研究機関等の研究開発戦略等の基礎資料として活用されることを狙っているものです。平成29年度までに250以上のテーマが実施されています。

特許庁のウェブサイトでは、目次として、以下の5項目に分類しています。
(i)特許出願技術動向調査(分野別調査):
注目度の高い技術テーマを対象に、関連する特許文献等を人手で1件ずつ読み込み、ノイズ排除・技術区分付与を行ったもの。

(ii)ニーズ即応型技術動向調査:
社会的関心が高い技術分野の特許出願動向、市場動向等を短期間で簡易的に調査したもの。

(iii)グリーン・トランスフォーメーション(GX)に関する技術の調査:
グリーン・トランスフォーメーション(GX)に関する技術区分(GXTI)単位での各国の特許出願動向を調査したもの。

(iv)特許出願動向調査(マクロ調査):
国際特許分類(IPC)を基準に世界知的所有権機関(WIPO)により設定された35の技術分野を利用して各国・地域の出願動向について定点調査したもの。

(v)その他の調査

 

3.調査報告書の閲覧[3] [4]

出願技術動向調査の概要は、特許庁のウェブサイトに公開されます。報告書は、国立国会図書館、各経済産業局特許室及び沖縄総合事務局特許室、各都道府県の知的所有権センター、特許庁図書館で閲覧可能です。その他、学会やシンポジウムでの発表や、雑誌やオンライン誌への連載という形で知らせることもあります。

 

4.分野別調査結果(平成29年度~令和4年度※):

実際の報告書とはどのようなものでしょうか。上記2.(i)に示した特許出願技術動向調査(分野別調査)に注目してみると、2023年7月1日現在、平成29年度から令和4年度までの報告書として、下記50の報告書の概要が、特許庁のウェブサイト上で公開されています。ここでは種類別に整理してみました。ご覧のように、自社に関係しそうな分野があれば、かなり貴重な情報源として活用できそうですね。また、自社が日頃あまり注目していない分野を閲覧してみることで、新たな気づきを得る活用手法もできるかもしれませんね。

種類 年度 内容
(1)一般 R4 LiDAR
(1)一般 R3 教育分野における情報通信技術の活用
(1)一般 R2 スマート農業
(1)一般 R2 触覚センシング
(1)一般 R1 インフラ設備のIoTを活用した維持管理技術
(1)一般 R1 スポーツ関連技術
(1)一般 H30 三次元計測、スライド資料
(1)一般 H30 電子ゲーム、スライド資料
(1)一般 H30 次世代建築技術、スライド資料
(1)一般 H29 超音波診断装置
(1)一般 H29 有機EL装置、正誤表、機械学習で推定した最新動向
(1)一般 H29 次世代光ファイバ技術
(2)機械 R4 スマート物流
(2)機械 R3 手術支援ロボット
(2)機械 R2 Maas(Mobility as a Service)~自動運転関連技術からの分析~
(2)機械 R1 福祉用具
(2)機械 R1 宇宙航行体
(2)機械 H30 人工関節、スライド資料、正誤表
(2)機械 H30 ドローン、スライド資料、正誤表
(2)機械 H30 パワーアシストスーツ、スライド資料
(2)機械 H29 自動走行システムの運転制御、機械学習で推定した最新動向
(2)機械 H29 食品用紙器
(2)機械 H29 リハビリテーション機器
(3)化学 R4 ヒト幹細胞関連技術
(3)化学 R3 ウイルス感染症対策
(3)化学 R2 プラスチック資源循環
(3)化学 R2 中分子医薬
(3)化学 R1 制御ラジカル重合関連技術
(3)化学 R1 3Dプリンタ
(3)化学 R1 マテリアルズ・インフォマティクス
(3)化学 H30 樹脂素材と異種素材との接合技術、スライド資料
(3)化学 H30 ハイバリアフィルム、スライド資料
(3)化学 H30 がん免疫療法、スライド資料
(3)化学 H29 ヒト幹細胞関連技術、機械学習で推定した最新動向
(3)化学 H29 リチウム二次電池(24年度更新)
(3)化学 H29 CO2固定化・有効利用技術
(4)電気・電子 R4 ミリ波帯のMIMO及びアンテナ技術(5Gへの応用を含む分析)
(4)電気・電子 R3 GaNパワーデバイス
(4)電気・電子 R2 機械翻訳
(4)電気・電子 R2 撮像装置における画像処理
(4)電気・電子 R1 AIを用いた画像処理
(4)電気・電子 R1 電子部品内蔵基板
(4)電気・電子 R1 V2X通信技術
(4)電気・電子 H30 電池の充放電技術、スライド資料
(4)電気・電子 H30 ストレージクラスメモリ、スライド資料
(4)電気・電子 H30 仮想通貨・電子マネーによる決済システム、スライド資料
(4)電気・電子 H29 MIMO技術
(4)電気・電子 H29 マンマシンインターフェイスとしての音声入出力
(4)電気・電子 H29 匿名化技術
(5)分野横断 R4 カーボンニュートラルに向けた水素・アンモニア技術(製造から利用まで)

※平成11年度から平成25年度までのテーマは、一覧として確認できる資料がありました[5]

 

5.令和5年度の特許情報調査(分野別):

令和5年度は、下記の調査を予定しています。

(一般)パッシブZEH・ZEB
(機械)ドローン
(化学)全固体電池
(電気・電子)ヘルスケアインフォマティクス
(分野横断)量子計算機関連技術

 

6.まとめ:

特許の情報は最新の技術情報であるため、その動向を分析することで先端技術分野の研究開発の方向性を定めるのに役立ちます。例えば、技術の俯瞰や技術トレンド、研究開発動向の把握、市場動向、各国の注力分野、政策動向、出願人出願動向や出願人国籍別の出願動向等の競合状況などが把握できる場合があります。
これらの情報は、場合により、3C分析やSWOT分析などにも活用でき、自社の課題や方向性を知るきっかけにもなりそうです。企業によっては取引先への説明資料に活用している例もあり[6] [7]、活用手法はまだまだ広がりそうです。
今回はご紹介していませんが、意匠、商標の出願動向の調査結果も公表されています。今回ご紹介した特許出願技術動向調査も含め、身近な知財情報源として活用してみはいかがでしょうか。

最後までご覧いただきありがとうございました。

参考文献
[1][2][4] 特許庁 特許出願技術動向調査
[3] 特許出願技術動向調査について 平成21年度実施テーマ「リチウムイオン電池」を例に
[5] 技術動向調査とは
[6] 令和2年度 特許出願技術動向調査等の調査結果
[7] 出願動向調査パンフレット

 

タイトルとURLをコピーしました