内容
1.はじめに:
2.出願国と、検討のタイミングについて:
2.1 優先順位を決めるための5つの判断軸:
2.2 事業モデルに基づく優先順位の例:
2.3 (補足)対象技術が未確定の場合:
2.4 海外知財を意識するタイミング:
2.5 今日からできる3つのアクション
3.おわりに:
1.はじめに:
いよいよ、具体的な出願国の検討です。
多くの場合、「海外展開=どの国に出すか?」と、考えがちです。
今回ご紹介するのは、事業モデルに基づいて優先順位をきめるという考え方です。
2.出願国と、検討のタイミングについて:
2.1 優先順位を決めるための5つの判断軸:
前回ご紹介した世界の特許出願動向を踏まえると、1つの考え方として以下の5つが判断基準になります。
①製造委託先
②主な販売見込み市場
③最も模倣リスクが高い国
④訴訟・交渉力が求められる市場
⑤参入予定 or 注目市場
2.2 事業モデルに基づく優先順位の例[i]:
上記(2.1)に示した5つの判断軸を元に、ビジネス活動のどこでリスクが発生するかに基づいて判断してみると、例えば以下のような優先順位となります。
①販売する国(市場):
➡自社の製品やサービスが売れたとたんに真似されるリスクが高まります。
したがって、競合企業が参入して、自社の技術の模倣が最初に起きやすい場所に出願します。
例えば、最初に米国で販売予定→米国出願が最優先とされる。
②製造する国(生産拠点):
製造をOEMに委託する場合は、模倣源になり得ます。製造情報が漏れる可能性を抑えておく戦略です。
工場で技術が露出してしまったことにより、他社が類似品を作るケースを軽減できます。
例えば、「中国で製造 → 中国でも押さえるべき」
③資金調達の市場(投資家向け):
VCなどの投資家が、どの国や地域を評価しているかで判断します。
結果として、調達額・バリュエーションに影響を及ぼすからです。
例えば、US VCから調達予定なら、米国出願が企業価値を向上させる要素となるはずです
④提携・OEM・共同研究などの交渉先:
外部企業と契約を結ぶ際、特許が交渉力になることがあります。
権利を持っていることで契約条件が有利になることがあります。
例えば、欧州メーカーと提携予定の場合には欧州特許を持っていることが交渉力を向上させることにもなります。
⑤将来的なM&Aや出口戦略の対象:
M&A先や買収企業がどの国かという点も重要です。
買収時に特許網が無いと買収価値が下がることがあります。
例えば、将来US企業に譲渡する出口戦略を描いている場合、米国出願しておくと価値が増すことがあります。
2.3 (補足)対象技術が未確定の場合:
ここまで(2.2)では、出願を検討したい技術やアイデアがあることを前提に、優先順位の考え方をご紹介しました。
しかし、スタートアップの企業によっては
「まだ技術が固まりきっていないが、将来的には海外展開や提携の可能性がある」
というケースも少なくないでしょう。
このような場合は、検討を中止するのではなく、
前回ご紹介した5庁(中国、米国、(日本)、韓国、欧州)を軸に検討し、
必要に応じて専門家に相談するなどしてみてはいかがでしょうか。
大切なのは、アイデアが固まっていなくても、一度立ち止まって検討しておくことです。
2.4 海外知財を意識するタイミング:
例えば、以下に挙げる例のように成長ステージに応じて考えてみる手があります。
(1)アイデア・企画段階:
公表前に「海外出願の可能性」だけでも検討しておく。
(2)PoC・試作:
特許公開前リスク(展示・論文発表・営業資料配布)を確認。
(3)PMF達成前:
競合比較→模倣の可能性分析の実施。
(4)シリーズA調達時点:
投資家向け資料に知財戦略を記載する。
(5)OEM/提携交渉時:
製造国・販売国での権利を確保する。
(6)海外展開直前:
各国の出願優先順位の最終意思決定。
2.5 今日からできる3つのアクション
以下に、今日からできる3つのアクションを挙げますが、(1)(2)については知財戦略を意識せずとも行っていることと思います。
知財戦略が経営戦略の一部あるいはそれを補助するツールであることが分っていただけると思います。
(1)今後3年の事業ロードマップを描く
(2)「製造国」「販売国」「調達市場」を整理してみる
(3)専門家に相談するタイミングだけでも決めておく
3.おわりに:
スタートアップ企業にとっての海外知財は「今すぐ出願するもの」ではなく、
「事業が成長した時に備えて、いつ判断するかを設計しておくもの」です。
明日ではなく、次の経営判断に備えて、ぜひ一度社内で話題にしてみてください。
3回にわたり海外知財を考えてみました。
知財を考えてみるきっかけになりましたら幸いです。
本日もご覧いただきありがとうございました。
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【参考文献】
[i] 「Top 5 Considerations for a Foreign Patent Filing Strategy -」
https://www.anaqua.com/resource/top-5-considerations-for-foreign-patent-filing-strategy/?utm_source=chatgpt.com
【関連ブログ】
海外知財を考える(1) ~海外展開していなくても、今から知財を考えるべき理由~
海外知財を考える(2) ~各国の出願動向を知る~
