1.はじめに
先日の投稿【解説】知的財産推進計画2026[i] で、注目ポイントの1つ目として「企業価値担保権」を紹介しました。
不動産や経営者保証がなくても、事業全体の価値を担保に融資が受けられる新しい制度です(2026年5月25日施行)。
その際、資金調達を検討中の方はメインバンクや弁理士に相談してみる価値がある点を書きました。
施行からわずか1ヶ月あまり。実際の融資事例が登場し始めています。
今回は、報道された中から3事例をとりあげて、「銀行は何を評価したのか」「中小企業・スタートアップは何を準備すべきか」を考えてみます。
2.どんな会社が融資を受けたのか[ii] [iii] [iv]
報道によると、施行直後の2026年5月末〜6月にかけて、「地方銀行」による融資事例が相次ぎました。
事例① クラフトジンの蒸留所(東邦銀行・福島県)[v]
東邦銀行の第1号案件は、福島県川内村でクラフトジンを製造するKokage社への融資です。
銀行が評価したのは、県内産のカヤの実を蒸留酒に活用する技術力・製造能力と、商品のブランド力。
調達資金は新規オープンするレストラン&バーの開設費用に充てられるとのことです。
融資を受けた株式会社Kokageは、クラフトジンを軸にエコシステムの構築・地域づくりを目指しており、2025年には商標権(登録7002240)を取得しています[vi]。
事例② 老舗旅館(北洋銀行・北海道)[vii] [viii]
北洋銀行は、網走市にある老舗の旅館業者・能取湖荘への融資を実行しました。興味深いのは評価の対象です。
コロナ禍からの業績回復だけでなく、サンゴ草の群生地といった能取湖畔の「景観価値」まで総合的に査定したと報じられています。
能取湖荘が運営する旅館「かがり屋」は、地元でずっと食されてきた確かな美味しさとの出会いこそ、旅の一番のご馳走との信念を持っています。オホーツクを代表する高級魚「きんき」などこだわりの夕食を前面に出し、「私たちの地元をご提供する」という姿勢を実践している様子がサイトからも読み取れます。
事例③ 木くず再生業(清水銀行・静岡県)[ix]
清水銀行は、木くずの再生処理を手がける小泉チップ工業に1000万円を融資しました。同行は、小泉チップ工業の環境保全への貢献と、処理能力向上による事業拡大の余地を評価しました。
具体的な評価について、清水銀行のプレスリリースでは、木くずを木材チップや製紙原料にリサイクルする同社の取り組みを、環境保全・資源循環への貢献に加え、防災・減災など国土強靭化政策にも資する「公共性および社会的意義の高い事業」だと評価しています。また、今後の人材確保・育成が進めば処理能力の向上や事業拡大の余地があること、そして代表者に「課題解決に向けた強い意欲と、事業を着実に推進する実行力」があることも、高く評価されているとのことです。
3. 共通する事項
並べてみると、あることに気づきます。
担保として評価されたのは、土地でも建物でもなく、「その会社にしかない強み」だったということです。
– 地元産素材を活かす技術力とブランド(Kokage)
– 立地と結びついた景観・体験価値(能取湖荘)
– 環境貢献と事業拡大余地(小泉チップ工業)
いずれも、PLやBS等の財務諸表には載りにくい「無形の資産」です。
これまでの融資では正面から評価されにくかったものが、担保の中身として堂々と査定されています。これが企業価値担保権の注目すべきポイントです。
4. 中小企業・スタートアップが今から準備できること
「うちも使えるかも」と思った方に、準備しておきたいポイントを3つ挙げます。
①自社の「強み」を説明できる形にしておく
銀行が事業の将来性を査定するには、材料が必要です。
技術力・ブランド・顧客基盤・独自のノウハウなど、自社の強みを言語化・文書化しておくことが出発点になります。
②強みを知的財産として「見える化」する
特許・商標・意匠として登録された権利は、第三者(銀行)から見て最も分かりやすい「強みの証明書」です。
登録に至らないノウハウでも、営業秘密としての管理体制を整えておけば、事業価値の説明材料になります。
③メインバンクに早めに相談する
企業価値担保権の融資では、銀行側にも事業を深く理解する「目利き」が求められます。付き合いの長いメインバンクほど、自社の事業を理解してもらいやすく、話が進めやすいはずです。
5. まとめ
制度が施行されて1ヶ月あまりで、クラフトジン、旅館、リサイクル業と、多様な業種で融資が実現しています。
「無形の強み」がお金に変わる流れは、確実に動き始めています。
そして、その強みを客観的に示すうえで、知的財産は強力な武器になります。
「自社の強みをどう権利化・見える化するか」は、弁理士にご相談いただける領域です。
資金調達の選択肢を広げる準備として、一度自社の無形資産を棚卸ししてみてはいかがでしょうか。
今回もご覧いただきありがとうございます。
引き続きご相談は(こちら)までお願いします。
※この投稿は公開情報をもとに作成したものであり、個別の融資可否や法的判断を示すものではありません。
<参考文献>
[i] 知財応援Blog「【解説】知的財産推進計画2026」

[ii] 「将来性」担保で融資スタート クラフトジン、旅館など成長支援―地銀:時事ドットコム
https://www.jiji.com/jc/article?k=2026062900070&g=eco
[iii] 東邦銀、企業価値担保権で第1号 クラフトジン事業に融資 | ニッキンONLINE
https://www.nikkinonline.com/article/392317
[iv] 企業価値担保権(旧:事業成長担保権)について:金融庁https://www.fsa.go.jp/policy/kigyoukachi-tanpo/index.html
[v] 株式会社Kokageのプレスリリース|PR TIMES
https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/155033
ABOUT – naturadistill 川内村蒸溜所
https://naturadistill.com/pages/about#hp-vision
[vi]J-PlatPat
[vii] 【公式】能取の荘 かがり屋 https://www.kagariya.cc/
[viii] 株式会社能取湖荘様向け企業価値担保権付融資の取扱いについて:北洋銀行 https://www.hokuyobank.co.jp/announcement/pdf/20260525_076596.pdf
[ix] 小泉チップ工業有限会社との「企業価値担保権」による 新たなファイナンスの取り組みについて https://www.shimizubank.co.jp/article_source/data/news/files/2e10123334239abebcf9fbb73c8cd6524b9a45e1.pdf

