知財目線でみるオニツカタイガー ~休眠商標・分社化・ブランド管理、6つの留意点~

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※連載「オニツカタイガーとブランド知財」第3回(全4回)

はじめに

前回まで(第1回第2回)、オニツカタイガーの分社化ニュースと、「一度消えたブランドが歴史を武器に復活した」物語を見てきました。

今回は、この事例を知財の目線で読み直してみます。振り返ってみるとこのニュースは、商標・ブランドという知的財産が、売上1,365億円を生む事業の中核資産として働いた実例と言えるのではないでしょうか。知財部門所属の方の目で見ても考えさせられる論点の多い事例だと思います。本記事では、「知財目線でいうと、ここが留意点になるのではないか」と感じた6つのポイントを、私なりに整理してみます。企業の知財部門の方にも、これから知財体制を作る企業の方にも、何か一つでも参考になれば幸いです。

留意点1:休眠商標は「将来の資産」かもしれない

1977年のアシックス発足後、「オニツカタイガー」は約25年間、事実上の休眠ブランドでした。もしこの間に商標権の維持が打ち切られていたら、2002年の復活はあり得ませんでした。

事業整理やブランド統合の場面では、「もう使わない商標の更新料をどうするか」という悩ましい判断がつきものです。維持コストの見直しはそれ自体が知財部門の大切な仕事ですから、休眠商標を整理すること自体は決して間違いではありません。ただこの事例は、過去のブランドに蓄積された歴史・信用が、時間の経過とともに「ヘリテージ」として価値を増すことがあると教えてくれます。休眠ブランドを棚卸しする際には、「維持コスト」だけでなく「復活オプションとしての価値」という評価軸も加えてみる価値があるのではないでしょうか。もちろん実務では、不使用取消審判のリスクをどう管理しながら維持するかという難しさもあり、このあたりは各社で工夫のしどころだと思います。

留意点2:分社化・組織再編は「知財の帰属とライセンス設計」の問題でもある

2027年1月の分社化では、「ONITSUKA TIGER」関連の商標権をアシックス本体に残して新会社OTグループにライセンスするのか、新会社へ移転するのか、という設計が必ず発生します。グループ内とはいえ、この設計次第で将来の自由度——資本関係の変動への備え、ライセンス料の設定、品質管理条項によるブランドガバナンス——が大きく変わります。

知財目線でいうと、組織再編スキームの検討のなるべく早い段階から、知財の帰属設計を論点に載せておけるかどうかが、留意点になるのではないでしょうか。とはいえ、あくまで一般論ですが、再編の情報が知財部門に届くのはどうしても遅くなりがち。「登記が終わってから商標の名義を相談された」というご経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。だからこそ、日頃から経営企画部門との接点を作っておくことが、こういう場面で効いてくるように思います。

留意点3:マルチブランドは「登録」だけでなく「体制」の問題でもある

ASICS(スポーツ・性能)とオニツカタイガー(ファッション・ヘリテージ)の使い分けは、同じ源流の製品を別ブランドで別市場・別価格帯に売り分けるマルチブランド戦略の成功例です。

一方で、オニツカタイガーは2023年にいったん米国から撤退しています。その背景として、当時は現地の事業会社が両ブランドをまとめて運営しており、「スポーツとファッションの考え方の違いで合意形成に時間がかかった」と報じられています(FASHIONSNAP)。ブランドの使い分けは商標登録だけでは完結せず、運営体制まで分けて初めて機能する——ブランドポートフォリオは「登録の束」ではなく「経営体制とセット」で考えるものだ、ということを示唆している事例のように思います。

留意点4:デザインの「復刻」を支える永続的な権利——商標による保護

MEXICO 66のような1960年代のデザインをそのまま復刻して売る、という現在のビジネスモデルは、模倣品を防ぐ法的な裏付けなしには成り立ちません。ここで効いているのが、シューズ側面のストライプ装飾(アシックスストライプ)を商標として保護する仕組みです。

実際、このストライプ装飾は約190の国・地域で商標登録されており、模倣品への権利行使にも活用されていることが、日本弁理士会関西会の紹介記事などで公表されています。J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)で出願人を「アシックス」として商標検索すると、ストライプ装飾に関する出願・登録を実際に確認できます。一度出願して終わりではなく、デザインのバリエーションや制度の変化に合わせて権利化を積み重ねている——ここにも「継続的な知財活動」の姿勢が表れています。

なお、意匠権は登録から一定期間(現行制度では最長25年)で必ず消滅する「期限付きの権利」です。仮に発売当時にデザインを意匠権で保護していたとしても、60年前のデザインであれば、その保護はとうに切れている計算になります。「数十年前のデザインをそのまま売る」ビジネスモデルを長期的に支えているのは、意匠権のような期限付きの権利ではなく、更新を続けられる商標権だという点は、知財目線で見ると示唆的です。

知財目線でいうと、製品デザインのライフサイクルに合わせて、発売時の意匠権による保護から、市場で識別力を獲得した後の位置商標・立体商標などによる恒久的な保護へと、権利の重心を移していく発想を持っておくことが、留意点になるのではないでしょうか。この発想は、知財ミックスによる多面的な保護にもつながります。

留意点5:グローバル出店ラッシュは「商標の先回り」が前提になる

上海・ミラノ・ソウル・ロサンゼルスと続く出店計画は、知財目線で見ると、進出前の商標確保(第三者による抜け駆け出願への対策)と模倣品対策の先行整備が前提になります。人気ブランドには模倣品がつきものであり、実際アシックスも模倣品対策への取り組みを公表しています。

事業部門が「出店します」と発表する頃には、商標調査・出願・輸出先国での税関登録が終わっているのが理想です。そのためには知財部門が事業計画より数年早く動く必要がありますが、これは知財部門の努力だけで実現できるものではありません。事業側の構想をいかに早い段階で共有してもらえるか——社内の情報の流れをどう作るかまで含めて、留意すべきポイントになるのではないでしょうか。

留意点6:「ブランドの物語」を裏付けるアーカイブも知財資産

オニツカタイガーの価値の源泉は「1949年創業の本物の歴史」でした。この物語を事業にするには、当時の製品・図面・写真・広告といった社内アーカイブが残っていることが前提です。復刻の元データとして、周知性・著名性の立証資料として、ブランドストーリーの発信素材として、アーカイブは何役もこなします。

多くの企業で、社史資料は倉庫に眠っているのではないでしょうか。ヘリテージが価値になる時代には、アーカイブ管理も知財管理の一部と捉え直してみる価値がありそうです。

中小企業・スタートアップの目線では

6つの留意点は大企業だけのものではありません。

1. 商標を「捨てる」判断は慎重に(留意点1)
更新をやめるのは一瞬ですが、取り戻すのは困難です。旧ブランド・旧ロゴにも将来の価値がないか、更新期限のたびに一度立ち止まって考えてみる価値はあるように思います。

2. 会社分割・事業承継のときは知財の名義を最初に確認(留意点2)
中小企業でも、法人成り(個人事業から会社への移行)・分社・事業承継の際に商標の名義が旧会社や個人のまま残っている例は珍しくありません。早めに確認しておくと安心です。

3. 海外展開は「決めた日」が出願日では遅いかもしれない(留意点5)
展示会出展や越境ECの開始前に、進出候補国での商標確保を検討しておくと、あとで慌てずに済みます。

なお、ブランドという無形資産が事業価値の中核になり得ることは、以前ご紹介した企業価値担保権の記事(「将来性」を担保にお金を借りる時代が始まった)——事業の将来性そのものを担保に融資を受ける制度——ともつながる論点です。

まとめ

オニツカタイガーの事例は、知財部門が経営陣に「なぜブランドの維持・投資が必要か」を説明する際の、格好の材料になるのではないでしょうか。こうした「知財が事業を動かした実例」を手元に集めておくことが、知財の仕事の説得力を支えてくれるように思います。

最終回の次回は、ここまでの話を中小企業・スタートアップの実務に引き付けて、「自社ブランドを知的財産として育てる」ためのチェックリストをお届けします。

いつもご覧いただきありがとうございます。(第4回へつづく)

商標確保など、今回の留意点の中で気になるところがあった方は、こちらからお気軽にご相談ください。

参考文献

  • FASHIONSNAP「分社化したオニツカタイガーが新宿に世界最大旗艦店 米国も再進出」(2026年6月10日) https://www.fashionsnap.com/article/2026-06-10/onitsuka-tiger-store-opening-strategy-2026/
  • 日本弁理士会関西会「知財活用事例:アシックス アシックスブランド」 https://www.kjpaa.jp/aboutus/case/asics
  • J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)商標検索:出願人「アシックス」 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

※本記事は公開情報をもとに作成したものであり、個別の法的判断を示すものではありません。

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