はじめに
以前の投稿「欲しい欄のボタンだけ押せばAIが文章を書く」では、画面の見せ方や操作の流れといった「使いやすさ」の特許事例を紹介しました。
今回は、2026年8月に登録されたばかりのPayPay株式会社の特許(特許第7906163号)を取り上げます。決済のしくみではなく、アプリのホーム画面の「見せ方」に関する発明という点で、以前の投稿と同じ切り口です。目で見てその動きが分かるという事は、侵害発見のしやすさという意味でも重要な点です。ポイントは、ユーザーが機能を探す前に、アプリの側が先回りして「どうですか?」と提案してくれる点にあります。身近なアプリの特許を通じて、「使いやすさの工夫」が知的財産としてどう保護されるのかを見ていきましょう。
どんな特許なのか
PayPayのような決済アプリは、決済機能のほかに、ショッピングやポイント、公共料金の支払いなど、たくさんの「ミニアプリ」を詰め込んでいます。こうした「1つのアプリでいろいろなサービスが使える」タイプのアプリは、しばしば「スーパーアプリ」と呼ばれます。
機能が増えるほど、ユーザーは「自分がよく使う機能をどう手元に集めるか」で迷いやすくなります。今回の特許は、ユーザーが自分で探し当てるのを待つのではなく、アプリが先回りします。具体的には以下です。
- アプリのトップ画面に、「お気に入り登録が提案されているミニアプリ」のアイコンを、通常のアイコンとは違う見た目(提案されていることが一目でわかる表示)で並べる
- そのアイコンをタップするだけで、お気に入りに登録できる
- 登録が終わると、アイコンの見た目も「お気に入り済み」の表示に変わる
つまり、「使うかもしれない機能を、ユーザーに探させるのではなく、アプリの側が先回りして”どうですか?”と声をかけ、ワンタップで応えられるようにする」点が、特許の対象になっています。決済技術のような見た目では分かりにくい内部処理を主としたものではなく、アイコンの見た目とタップ操作という、視覚的に確認しやすい点を権利化しているところで権利を取得しています。
特許公報の図4(ミニアプリのアイコンの表示形態及び操作領域)を引用として添付します。
【図4】
この図において、図4(a)は、お気に入りへの登録が提案されている場合、図4(b)がお気に入りへの提案がされていない場合の状態です。
この特許の実施形態(および請求項6)は、図4(a)において、ユーザーの操作箇所が、411(第1操作領域)であった場合に、このアイコンに対応するミニアプリが、お気に入りに登録される処理に焦点を当てています。
クレームの内容(概要)
この特許の中心となる請求項1は、大きく分けると次の3つの役割を組み合わせたプログラムとして書かれています。
- 表示制御部:複数あるミニアプリのうち、お気に入り登録が提案されているものを選び、そのアイコンを「提案中であることがわかる見た目(第1形態)」でトップ画面に表示させる部分
- 受付部:そのアイコンに対する利用者のタップ操作を受け付ける部分
- 登録部:受付部が「お気に入りに登録するための操作」を受け付けたら、そのミニアプリをお気に入りに登録する部分
請求項1は、上の3つの役割を、1つのプログラムとしてまとめて端末装置に機能させる点を骨格にしています。「見せ方(表示制御部)」「操作の受け付け(受付部)」「その結果としての処理(登録部)」という3段階の組み合わせとして権利化しています。この出願は請求項が全部で27項あります。アイコンの表示形態のバリエーション(お気に入り登録済み・解除可能な状態の見た目の違いなど)や、提案するミニアプリの決め方(利用履歴に基づく、定期的に更新する等)についても、権利化しており、きめ細かい権利範囲として取得されています。
PayPay社の最新のビジネスモデル特許という位置づけ
この特許は、出願が2026年3月18日、登録が8月6日、特許公報発行が8月17日です。まさに直近で権利化された最新の登録特許です。決済アプリ大手のPayPayが、決済機能だけでなく、いわゆるUI/UX面の視点でも継続的に特許を出願・取得していることがうかがえます。
PayPayは、決済関連の特許も積極的に出願しています(※1)。競合が多い領域では、主となる機能だけでなく、「使いやすさ」などの他社との差別化のポイントについても独占的な使用を確保する戦略をとる場合があると考えられます。
視点を変えてみると、例えば、個人発明家の方が、そのような使い勝手がよくなるようなアイデアをベースに発明を創作して出願するということも考えられますね。
中小企業・スタートアップへの実践ポイント
1. 「使いやすさの工夫」も特許の対象になりうる
自社サービスに高度な独自技術がなくても、「ユーザーにどう見せるか」「どういう操作の流れにするか」という設計に工夫があれば、それ自体が特許になる可能性があります。アプリやWebサービスを提供している場合、機能そのものだけでなく操作フローも知財として捉え直してみる価値があります。
2. 【例外】として、先に製品を出してしまっても、諦めなくてよい場合がある
今回の特許では、「特許法第30条第2項適用」の記載があり、出願前にすでにアプリストア等で該当機能を公開していました。原則として、発明を公開してから出願しても、既に新規性を失っていて権利は取れません。しかし、本件は、一定の条件のもとで救済する制度(新規性喪失の例外)を使った例です。もしも、「もう製品をリリースしてしまったから特許は無理」という案件があったとしても、まずは相談してみる価値がある場合があります(適用には期限や手続き上の条件があるため、早めの相談が重要です)。
ただし、新規性喪失の例外は、あくまで「例外」であるという点です。外国出願では不利に取り扱われることもありますので注意が必要です。
3. スピード感を持って権利化することも可能
この特許は、早期審査制度を活用し、出願から登録まで約5ヶ月というスピードで進んでいます(審査請求も出願と同日に行われています)。「特許は取得までに何年もかかる」というイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、早期審査などの制度を活用すれば、事業のスピードに合わせた権利化ができるケースもあります。
まとめ
今回の特許の権利化部分は、「アイコンの見せ方」「タップ操作」といった、多くの方に身近な部分でした。自社のアプリやサービスの「使いやすさの工夫」を、技術ではなく単なるデザインの問題として片付けてしまっている場合、知的財産としての可能性を見落としているかもしれません。
「これも特許になるのでは?」と思ったら、そのモヤモヤの段階でぜひ一度お聞かせください。
今回もご覧いただきありがとうございました。
参考文献
- 特許公報 特許第7906163号(発行日:令和8年8月17日)特許情報プラットフォーム|J-PlatPat [JPP] https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
- (※1)知財図鑑「PayPay、通信障害時などオフラインでもキャッシュレス決済可能に─業界初、複数特許を出願中」 https://chizaizukan.com/news/2yEgMyqtsG7nLo4mpAuCbP/
- PayPayからのお知らせ「ホーム画面のアイコンの表示が新しくなりました」(2025年7月31日) https://paypay.ne.jp/notice/20250731/f-home-icon-renewal/
※本記事は公開情報をもとに作成したものであり、個別の法的判断を示すものではありません。

